「CMの世界で活躍してきた若き監督がペ・ドゥナ、キム・ナムジンを主演に描く、今までの韓国映画にはあまりなかったキュートでポップなテイストのロマンティックなラブ・ストーリー」
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やっとという感もあるかもしれないが、韓国映画、“韓流”の勢いは少しずつ落ち着いてきているように感じられる。興行的な面で考えれば、公開規模に見合うだけの大きなヒットが生まれなかったこと(『私の頭の中の消しゴム』、『四月の雪』くらいだろう)、一般的な面では辟易した気分が大きな要因になっていると思う。馬鹿騒ぎが定着に向かっていると考えていいと思うのだが、そうなることで今まで辟易していた映画ファンが再び、韓国映画に眼を向けるという部分も生じてくるはずだ。今回紹介する『春の日のクマは好きですか?』はそういったファンにも観てもらいたい韓国映画である。
韓国映画といえば、分かりやすさや泣きが前面に出された作品というイメージが強い。キム・ギドク、ホン・サンスなどヨーロッパを中心に世界的な評価を受けている監督もいるが、一般的に“韓流”と考えられている作品は前者に属するものだ。これらの作品はいい意味ではエンタテインメント性に富み、逆の意味では大味な印象を残すのだが、最近はそういった部分とは違う、ちょっとポップでキュートな味わいのある作品も公開されるようになってきた。その代表が『ガン&トークス』、『小さな恋のステップ』のチャン・ジン監督の作品である。チャン・ジン監督は映画だけでなく、TVに舞台にと縦横無尽の活躍をしているのだが(韓国版宮藤官九郎とも称されていたような)、この『春の日のクマは好きですか?』の監督ヨン・イは欧米や日本では主流となりつつあるCM、ミュージック・ビデオなどで活躍し、この作品で映画監督デビューを果たしている。CM、ミュージック・ビデオなどで活躍してきた監督の大きな特徴は映像表現にあるのだが、このヨン・イ監督も今までの韓国映画にはなかったようなキュートでポップなテイストの作品を作り上げている。
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物語の主人公は大きなスーパーでレジ係として働く女性。彼女は入院する三文小説家の父親に頼まれ、図書館に画集を借りに行く。電車の中でその画集を眺めながら、ロマンチックな気分に想いを馳せる彼女だが、現実の恋愛では一緒に映画を観れば、物語にいちゃもんをつけ、スルメを食べるなど、ロマンチックな気分などひとつとして生み出すことが出来ず、恋人もなかなか出来ない。そんな彼女は電車の中で運転手をしている幼馴染の男に再会する。実は彼はずっと彼女のことを思い続けていたのだ。一方、そのことを全く気にもしていない彼女は画集の中に手書きで書き込まれたラブレターらしき文章をみつけ、その文章が自分に書かれたもの、自分にとっての王子様はその男性だと思い込み始めていくのだった。
主人公の女性を演じるのは『リンダ リンダ リンダ』、『子猫をお願い』などの作品で人気のペ・ドゥナ。日本への留学生、活動家のような女性、男勝りの刑事など本当に様々な役柄を演じてきているペ・ドゥナだが、ここで彼女が演じるのは夢見がちなんだけど、ちょっと感覚がズレた女性。自分の可愛さを活かせせば男なんていくらでも寄ってきそうなものなんだけど、持って生まれたズレがそれを邪魔してしまうというような感じの子だ(実際にこういう子はいそうなんだが)。ま、三文小説家で強烈な性格の父親をみれば、この親にしてこの子ありという感もなきにしもない。そんな彼女を一途に愛する幼馴染の男性を演じるのが韓国を代表するモデルとして活躍しているキム・ナムジン。この作品が映画出演2作目にして初主演作となった。
物語は主人公が画集に書かれたラブレターの文章を追いながら(次は○×の画集という指示まで書かれているのだ)、謎の王子様を捜し求めようと奮闘していく中での出来事を描いていく。王子様に出会うためには勝手な妄想はもちろん、図書館の司書を友人が誘惑しているうちに、貸し出しリストのコンピュータを覗き込みもするし、挙句の果てにはその司書こそが彼に違いないと確信し、不思議なデートに脚を運んだりもする。その結果は勘違いの山が出来上がっていくだけなのだが。一方、彼女に一途な想いを抱き続ける幼馴染の男は彼女の親友を紹介されたり、謎の男の存在に忸怩たる気持ちを抱えていく。彼女への想いと彼女の幸せゆえにそこはもうどうにもならないのだ。
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センテンスのようにサブタイトルがつきながら進んでいく物語、そこに詰め込まれていく印象的なエピソード、美しい映像、耳障りのいい音楽などが今までの韓国映画には余りなかったポップでキュートな味わいを生み出し、フレデリック・ステュアートからギュスターヴ・カイユボット、フランシスコ・ゴヤなどの名画とそこに綴られた言葉、主人公の気持ちの変化と彼女に一途な想いを寄せる幼馴染の気持ちにはうっとりとした優しい気持ちが生じてくる。そんな優しさ、面白さが沁みこんで来る小品だ。
監督は1974年生まれ、出演者やスタッフもほぼ同年代が集ったらしく、この作品は韓国に暮らす20代後半(この作品撮影時)の気分がうまく表されたものとして捉えることも可能だと思う。そうした感覚は僕らとあまり変わりがないように感じる。なお、意味不明かも知れないタイトルは村上春樹の『ノルウェイの森』からの引用だという。
従来の“韓流”ファンはもちろんだが、それ以上にポップでロマンティックなラブ・ストーリーが好きな方にこそお勧めの作品。本にうっとりするようなラブレターを書いた人物の正体、ちょっとズレた主人公と幼馴染の男の恋の行方をぜひ、劇場でお楽しみください。 |