「SF好き、イギリス的ユーモア好きは必見の面白さに満ちた世界中に熱狂的なファンを抱えるSF作品がついに映画化」
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漫画はそれ以前からだが、小説という読書の楽しみを覚えたのは中学生になった頃だった。当時は角川映画と連動して、角川文庫などの文庫本がバシバシと刊行されていた頃で、価格も今みたいに高くなかった(中学生の小遣いでも週に1冊は買えた)。読書の入り口はご多分に漏れず、星新一、筒井康隆といった誰もが通るものから始まり、その後、映画の原作やら音楽に関わるものやらにと拡がっていくのだが、そんな中で印象に残っているのが、宇宙服を着たふたりの男性が月の上かなんかを飛び跳ねているコミカルなイラストの文庫本。今、手元にあるわけではないし(実家にはあると思うが)、記憶ほどいい加減なものもないので間違えているかもしれないが、その文庫本が映画化された。それが今回紹介する作品『銀河ヒッチハイク・ガイド』である。
この地球に普通に生活している男の自宅がバイパス工事のために取り壊しになるというシーンから物語はスタートする。そこに彼の親友が尋ねてきて、家が壊されるのでてんてこ舞いしている男をパブへと連れ出す。親友が言うには、自分は異星人で地球は後数分後になくなる。お前は自分の命の恩人だから、今回は俺がお前を助けてやるとのこと。そんなことあるわけないだろと思っていると地球は本当になくなってしまう。親友によりなんとか異星人の宇宙船をヒッチハイクできた男は彼と共に宇宙空間を彷徨うことになる、というもの。タイトルの『銀河ヒッチハイク・ガイド』は宇宙で最も売れている電子ブックのこと。宇宙に飛び出した主人公が親友の異星人から「読め」ともらうもので、その親友はこの本の編集者。これにより宇宙空間のより良い効率的な旅が楽しめるようになっている(「ロンリー・プラネット」や「地球の歩き方」みたいなもの)。
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1978年にBBCラジオでドラマ放送されて以降、小説の刊行、TVドラマ・シリーズ、ビデオ・ゲーム、LPレコードなどメディアの枠を広げながら、リアルタイムで放送を知るファンから全く知らない新しいファンまで世界中に莫大なファンを抱えることになったこの作品、映画化も1980年代以降何度となく持ち上がっては消えていっている。その度に盛り上がるファンの過剰な期待、これはオファーされる監督もたまらないだろうなと思うのだが、この作品を引き受けたミュージック・ビデオ出身の新人監督ガース・ジェニングスは「脚本が郵便受けに届く前に断ろうと思うくらいプレッシャーが大きかったが、世界中の人々が映画化を望んでいるということは作品が作られる前から多くのファンを持っていることにもなる。そんな幸運を不意にすることはないと思って、監督を引き受けることにした。」と語っている。ジェニングス監督がこの原作と出会ったのは9歳の頃。その当時、彼の家の隣に暮らしていた老教授はラジオドラマのセリフを空で暗記していたというのだから、この作品の人気の凄まじさというのも伝わるのではないだろうか。ちなみに、ジェニングス監督を推薦したのはあのスパイク・ジョーンズ監督(『マルコヴィッチの穴』)、候補の一人だったジェイ・ローチ監督(『オースティン・パワーズ』)らだという。
出演は『ラブ・アクチュアリー』のマーティン・フリーマン、ヒップホップの世界では誰もが知るモス・デフ、『コンフェッション』のサム・ロックウェル、『あの頃ペニー・レインと』のズーイー・デシャネル、『ラヴ・アクチュアリー』のビル・ナイ、そしてジョン・マルコヴィッチなど。
脚本は原作者のダグラス・アダムス自身。しかし、原作者のダグラスはこの脚本を完成させた後、49歳の若さで惜しくも急逝している。映画化はその後、具体的に動き出し、脚本は彼が数年かけて書き上げた遺稿に最終調整を加える形で完成している。
このHPで好評連載中のコラム「もぎたて映画通信」の中で電気羊さん(SF好きだということは分かるよね)が現時点(05/8)での私的ナンバー・ワンと断言しているが、この作品は確かに相当に面白い。原作のダグラス・アダムス自身が「モンティ・パイソン」のチームに関わっていただけあって、おちょくっているというのか、皮肉というのか、小技の利いた笑いに満ちている(逆にこの油が振り掛けられたようなくどさが好きか嫌いかという面も出てしまうはず)。
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オープニングはショーをするイルカのシーンから始まるのだが、実はこのショーのジャンプによる輪くぐりなどは地球上で2番目に高等な生物であるイルカから3番目に高等な生物の人間への「地球がなくなるよ」という警鐘だったのだという。じゃ、1番は何なのとなるが、これが後半の思わぬ作品のキーとなる。なんとか宇宙に逃れ、一命を取り留めた男はそこでヴォゴン星人から宇宙で3番目に酷いといわれる詩を聞かされることになったり、低能なのに銀河系大統領の座を射止めてしまった宇宙人の宇宙船に拾われ、そこで男は自分が恋した地球の女性にめぐり合い、常に憂鬱な人間の頭脳をはめ込まれたロボット
マーヴィン、大統領らとハチャメチャな旅を続けていく。CGも遊びを取り入れながら見事に作り上げており、特にビル・ナイが登場して以降のあのシーンは目が眩むほどの素晴らしさ(ともちろん面白さ)。ガイドブックのアニメーション、宇宙人の造形、ハッピーなテーマ曲もグッド。出演者たちのオーバーなくらいの演技も見事にはまっている(特にサム・ロックウェルと小技を利かせるモス・デフ)。そして、思わぬ泣きのシーンまで用意されている。ま、ちょっと詰め込みすぎかもしれないが、子供の頃から持っているSF、冒険譚の楽しさにイギリス人らしい皮肉、笑いをふりかけたのがこの作品『銀河ヒッチハイク・ガイド』なんだろう。だから、電気羊さんも書いているようにSF好き、イギリス的ユーモア好きは必見。個人的にはとりあえず、手元にない小説買いなおして、DVDになっているTVシリーズも見てみようかと思っています。馬鹿らしい上質な映画(誉め言葉!)が好きなら、ぜひ、劇場に足を運んでください。間違いなくお気に入りになるはずです。そして、あるだろう次作に期待も膨らむが、ダグラス・アダムスがいないとなると多少の心配もあるのだが・・・・。
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