「トラの表情、動きの素晴らしさに虜になってしまう『愛人/ラマン』、『子熊物語』のジャン=ジャック・アノー監督による感動作」
動物が主役となった映画は数多い。『名犬ラッシー』、『フリー・ウィリー』、『ハチ公物語』といった人間と動物の交流を描いた感動作、『ベイブ』、『ドクター・ドリトル』といったコメディーと挙げていけばきりがない。それほど、動物と人間との生活が切り離せないということでもあるのだろう。今回紹介する『トゥー・ブラザーズ』も動物が主役となることが大きな話題となっている作品である。
人間の手により離れ離れになってしまった双子の子トラ。様々な紆余曲折を経て、2匹は再会を果たす。そして、元の自分たちの生活へ戻っていこうとするが・・・・というのがこの作品の物語である。作品を監督したのは『愛人/ラマン』、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』、『薔薇の名前』、『スターリングラード』のジャン=ジャック・アノー。並んだ作品から重厚な人間ドラマというイメージが強いアノー監督だが、動物を主役とした作品はこれが初めての試みではない。日本では大きなヒットには結びつかなかったが、フランスではセザール賞の監督賞などを受賞するなど高い評価を獲得した『子熊物語』(1988)という作品を撮っているのだ。『子熊物語』は熊たちの微妙な表情の捉え方がまるで演技をしているかように印象的な作品であったので、この作品『トゥー・ブラザーズ』への期待は必然的に高まっていた。
『トゥー・ブラザーズ』の発端についてアノー監督は「『子熊物語』の構想を練るために動物園にしばしば通いながら、どの動物なら映画スターになれそうかと思案していた。もちろん、作品の主役となるクマを気にいっていたが、同時にトラの目にも心を奪われていた。『子熊物語』以後、自分が動物の映画を撮りたいという衝動に駆られるとは思っていなかったが、数年前、家族とのクリスマス休暇をある孤島で過ごしていた時、全く何もすることがないので、頭に思いついたことを書き綴っていた。それは2匹のトラの話になっていた。妻にそれを読んでもらうと、映画にしたらと勧めてくれた。」と語っている。それから3年後、ある映画の製作を終えたアノー監督は、『トゥー・ブラザーズ』のリサーチを開始し、脚本を執筆しながら、映画の基礎となるキャスティング、ロケーションなどを考えていったという。その中でも重要な要素となるのがアニマル・トレーラーであった。監督は『子熊物語』でその手腕を知っていた
ティエリー・ル・ポルティエに脚本を読んでもらい、参加の承諾を得る。ポルティエは自分の所有している中から、脚本に描かれているシーンを演じることが出来るトラを選別すると共に、他に必要な能力を持ったトラを集め、トレーニングを行い、撮影は走るのが得意なトラ、目の輝きが素晴らしいトラなどその用途に合わせて進められた。この撮影に使われたトラは全部で30頭だという。もちろん、トラの演技にはCGは一切使用されていない。また、安全を第一に考えた撮影は、ゲートの外から行われ、俳優とトラの絡むシーンも、1回はトラ、もう1回は俳優と分けて撮影を行い、そのふたつのフィルムを合成させて、ひとつのシーンを完成させている(1箇所だけ、リアルに競演しているシーンがあるというが)。
出演は『LAコンフィデンシャル』、『メメント』のガイ・ピアース、『デリカテッセン』、『グレースと公爵』のジャン=クロード・ドレフュス、『赤ちゃんに乾杯!』、『宮廷料理人ヴァテーヌ』のフィリピーヌ・ルロワ=ボリュー、今後の活躍が大いに期待される子役のフレディー・ハイモアなど。
この作品の魅力は間違いなくトラである。『子熊物語』でもクマたちの微妙な表情を生み出していたアノー監督とスタッフたちが生み出したマジックともいうべきトラの表情、動き。悲しげな顔、訴えかける眼、喜び楽しむ姿、そして野性的な本能を見せるシーンなど本当に演技をしているとしか思えないトラたちに完全にやられてしまった。双子の子供のトラがじゃれ合う可愛いシーン、人間に飼われ大切にされるシーンもあれば、サーカスのトラとしての扱いを残酷に感じるシーンもある。この物語が伝えるのは、自然の大切さを顧みることもせずに行われる無秩序な開発への警告、人間と動物との深いつながりという自然の尊重と共生であったりするのだが、そういった部分も特に大上段に構えているわけではなく、あくまで双子のトラを主役にそれを見守る人間たちの物語として描いていく。舞台となるタイ、アンコールワットでも撮られているという壮大な風景も素晴らしいです。家族で観にいくも良し、カップルで行くも良しのこの作品『トゥー・ブラザーズ』。ぜひ、劇場に足を運んでください。
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