「人間関係、会話の絶妙な“間”が素晴らしい、『ムッシュ・カステラの恋』のアニエス・ジャウイ監督待望の新作!カンヌ国際映画祭
脚本賞 受賞!」
中堅会社の社長であるカステラ氏が舞台女優に一目惚れして、彼女に気に入られたい一身で懸命な努力と猛烈なアタックを試みるが・・・・という作品『ムッシュ・カステラの恋』。フランス本国はもちろん、日本でも大ヒットしたこの作品、決していい男ではないカステラ氏の行動と成長に笑い、感動した方も多いと思う。この『ムッシュ・カステラの恋』で映画監督デビューしたアニエス・ジャウイ監督の待望の新作(第2作目)が公開される。それが今回紹介する作品『みんな誰かの愛しい人』である。
監督デビュー作『ムッシュ・カステラの恋』で大絶賛を受けたアニエス・ジャウイ監督、ご存知の方も多いと思うが、私生活でもパートナーを組んでいたジャン=ピエール・パクリとのコンビにより『家族の気分』(後にセドリック・クラピッシュにより映画化)などの舞台、アラン・レネ監督による『恋するシャンソン』の脚本家、そして役者として活躍してきた人物である。特に登場人物への暖かい眼差しとユーモア溢れた脚本の評価は圧倒的に高く、数々の賞を受賞している。そんな彼女がジャン=ピエール・パクリとのコンビにより送り出すこの新作『みんな誰かの愛しい人』を楽しみにしていた方も多いのではないだろうか。もちろん、この作品も脚本で、今年(2004)のカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞している。
今回の作品の主人公は、有名作家の娘であるロリータ(この名前のセンス!)。彼女は体型は太目だし、何かにつけて父親の名前が出てくるし、それを隠しながら生きていても、彼の名前を出した途端に周りの態度は変わるし、恋愛相手も父親目当てのように感じてしまう。しかも父親は自分には絶対に無関心のようだと感じているという有名作家の父親の娘であるコンプレックス(ファザコン)を抱えながら生活している。作品はそんな彼女の父親を含めた家族、彼女の恋人、彼女の歌の先生とその売れない作家の夫などの関係と日常を『ムッシュ・カステラの恋』と同様に暖かい眼差しと普通に生活しながら生まれてくるユーモアを交えながら描いていく。
アニエス・ジャウイ監督はこの作品の発端について「父と娘の関係と、自分と同じ年頃の恋人のいる父親を持つこと。これは私自身が経験したことで、ずっと映画に取り込みたいと思っていたの。それからほんの少し“権力”についても語りたかった。それも権力を行使する側からではなくそれを受ける側から見た権力についてね。父親に“ノー”と言えない人は、ボスのような偉い人に向かって“ノー”と言える可能性がゼロに近いということに気付いたわ。結局はこの2つのテーマがうまく一体化されたということね。」と語っている。作品にあえて当てはめて言えば、主人公のロリータの父親は再婚して若い美人の妻を迎えており、他の若い女性にも手を出しはしないが目を配っているし、ロリータは有名作家という父親の権力に歯向かいたいと思いながらもそうできない。しかもその父親だから寄ってたかるような人がいるし、それをロリータは当然嫌だと思っていても、言い出せない。そこには彼女自身の父親への渇望があるからなんだろうけど、ま、こんなことを考えずとも、この作品は最高に楽しく観ることが出来る作品です。
出演は、ロリータ役に、この作品が日本デビュー作となるマルリー・ベル、著名な作家である父親役に『ムッシュ・カステラの恋』でカステラ役を勤め、脚本も書いているジャン=ピエール・バクリ、ロリータの歌の先生役に監督、脚本のアニエス・ジャウイ、その他、『めざめの時』のローラン・クレヴィル、『ムッシュ・カステラの恋』ではアシスタントをしており、今回長編映画デビューとなったカイン・ボーヒーザなど。
ロリータがタクシーに乗り、両親と待ち合わせの場所に向かう中、些細なことから運転手との間に気まずい空気が広がってしまうというオープニングのシーン。ここに漂う空気感、“間”が「あ、こういうことあるよ」と納得してしまうほどの絶妙さで、思わず笑い、作品に入り込んでしまった。その後もこういった絶妙なシーンが続く。僕にとってのこの作品の最大の魅力は、この絶妙な“間”にある。今や誰もが持っている携帯電話、これって人の会話を台無しにしたりもするのだけど(そういう経験あるでしょ)、この作品ではそういった携帯電話の生み出す“間”も本当にうまく描いている。監督が言う“権力”に媚びようとして生まれる“間”や権力になることで生まれる“間”、通じ合っているようで根っこは通じ合っていない“間”という人間関係の微妙なズレが観る側からすると、自分の経験と重なり合う部分もあり「クスッ」と笑ってしまう。もちろん笑うばかりではない。この作品に出てくる男の大半は、行動的な女性陣に比べれば、頭でっかちなダメな奴である。そして、女性陣に責められるのだが、これは本当に頭が痛いというのか、グサッと突き刺さるものがあった(普段から言われていることなだけに余計にその気持ちが強かったのだろうか)。コンプレックスだらけのロリータの成長に自分を重ねる向きもあるだろう。とにかく、そういった人間の描き方、間合いが絶妙だし、観終わった後に登場人物の在り様について、語り合うのも楽しい作品となっている。音楽の使い方もすごくいいです。派手な作品ではないですが、本当に素晴らしい作品です(邦題も絶妙!)。日常の妙を描いた作品が好きな人など、ぜひ、劇場に足を運んでください。
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