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今月封切られるコメディ「俺物語!!」は意外な拾い物をした満足感を得た。
30キロも増量して主人公の猛男役に挑んだ鈴木亮平の取り組み姿勢と心意気にまず惚れて、少女マンガのキャラクターに合わせたメイクと動作に、驚きつつも好意的に見始める。
もちろんかなりのオーバーアクトだ。力士のような声を出しのっしのっしとがにまたで歩き、表情筋を駆使していろんな顔をみせる。彼でなかったら、わざとらしくて、引いてしまうところだが、鈴木亮平の誠実な優しさと品位が、顔からも身体からもにじみ出て、自然に顔がほころんでしまうのだ。
その大げさな芝居を、さらりと受ける親友役の坂口健太郎と愛らしいけれどベタつきのないヒロイン永野芽郁の、さわやかな存在がバランス良くマッチして、実に清々しい。
猛男の恋の行方にしぼった展開が功を奏し、彼のうぶで純粋な心の動きが手に取るように伝わって、こちらまで胸がキュンと熱くなる。
恋のはじまりは勇気が出ない。相手のレスポンスが恐くてなかなか本心を告げられない。一日中、頭の中で相手の気持ちを想像してはため息をつき、何を見ても聞いても相手と結びつけてしまう。
そんな誰もが経験してきた恋の過程を、巨漢の猛男とキュートな凛子が目の前でたどる姿に、思いのほか夢中になって、笑いながらエールを送る。
気がつけば最初から最後まで、口角は上がりっぱなしだ。なんて爽やかで居心地のよい映画なのだろう。
舞台が仙台という背景も相乗効果を上げている。緑がまぶしい街並み、広々として清潔な公園に、海あり川ありの豊かな自然。商店街や河原の土手、校舎の屋上と、どのシーンにも澄んだ「気」が流れ、観る者をしあわせな気分にしてくれるのだ。
その昔あこがれたマンガのヒーローは、すらりと背が高く細面で長髪の優男だったが、今は違う。長身に横幅も大きく逞しく、気は優しくて力持ち。見た目はゴリラでも誠実で正義感にあふれ、そして謙虚。現役の女子も昔の女子も、ようやく一見の容姿ではなく、中身の男気で評価するようになったということか。
マーガレットの「俺物語!!」は売れに売れ、猛男ファンは増え続けているが、さらに鈴木亮平の魅力で、中高年の女性たちまで惹き込んでいくに違いない。
<映画コラムニスト 合木こずえ>