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「シンデレラ」
ドレスに魅せられて…
ケネス・ブラナー監督の「シンデレラ」は、冒頭から、幼少時にあこがれた夢の世界へ連れて行ってくれる。大自然に囲まれた牧歌的な村、陽光きらめく草原、石造りの瀟洒な館。かつて絵本の挿絵から想像をめぐらせた風景の中、原作者シャルル・ペローのシンデレラとはひと味違うヒロインが飛び跳ねる。
最愛の父を亡くし、継母に虐げられても、苦境の中に喜びを見つけ出そうとする前向きな思考は、幼い頃に他界した母から授かったもの。「勇気と優しさ」を忘れなければ幸せになれると信じて、ヒロイン、エラは笑顔を絶やさない。
王子のキャラクターも魅力的だ。長身でハンサムな、優しいだけが取り柄の旧来型ではなく、正義感と責任感を持ち、統治者としての資質も見せる頼れる存在として描かれている。
森の中での二人の出会い、舞踏会での再会と、互いに恋心を抱く過程もきちんと描き観客を納得させる脚本もいい。人間味あふれるエラと王子を演じているのは、舞台経験も豊富な英国の新鋭、リリー・ジェームズとリチャード・マッデン。地に足の着いた確かな演技で、われわれを詩的で壮麗な画面に惹き込む。
そして白眉は、継母にふんしたケイト・ブランシェットだ。どんな作品も彼女が登場するだけで後光が射すが、今回は、目が覚めるような衣裳と立ち居振る舞いで「継母トレメイン夫人」のよこしまな心と、その奥に潜む悲しみまでちらつかせ、反感だけでなく哀れまで誘う。彼女が身に纏うドレスは、黒や黄、紫、緑といった主張の強い色を基調にしたモダンなデザイン。大きなツバをアンシンメトリーにしてチュールをあしらい、イヤリングと靴も合わせたトータルコーディネイトで、その日の気分や状況を物語る。細い体にフィットした装いには、自己主張と嫉妬深さが現れて、あらためて色とデザインがもたらす印象を思い知る。
一方、対照的なエラの衣裳は素材からして柔らかく優しい発色とデザインだ。色味はマドンナブルー。聖母マリアの象徴でもあるブルーは、清楚と純潔を表し、幸せを呼ぶという魔法の力も持っている。かぼちゃの馬車を降りて舞踏会に現れた時のエラは、王子やゲストだけでなく、画面に釘付けのわれわれにも感嘆のため息をつかせる。光沢のあるタフタの上に幾重にもチュールを重ね、スパンコールをちりばめたプリンセス・ラインのドレスは、動くたびに、裾が風をはらんでふわりと揺れる。大きく開いた胸元には、繊細な蝶の飾りが縫い付けられ、優雅にひらめく。エラのドレスと揃いのブルーを、王子の白い燕尾服の襟とカフスに使っているのも粋なセンスだ。衣裳は、過去に3度アカデミー衣裳デザイン賞を受賞しているサンディ・パウエル。
おとぎ話の登場人物に意思を持たせただけでなく、衣裳にも明解な主張をこめた「シンデレラ」。永遠のベストセラーは、こうして少しずつ進化しながら時代を越え、語り継がれてゆく。
<合木こずえ>