新着映画情報

ジョニー・デップの「ローン・レンジャー」内覧試写に汗だくで行き、効きすぎた冷房に参り、夜足がつる。
そんなことはともかく、「ローン・レンジャー」は抜群に面白い。「パイレーツ・オブ・カリビアン」のプロデューサーと監督の作品だが、だんぜんこちらの方が出来が良いと思う。もっとも信州人(筆者)としては海の上より土埃の方が安心するという地域性もあるけれど。
ジョニー・デップの相変わらずのガビガビメイクも慣れたせいか魅力的に見えるし、愛嬌のある芝居もオーバーアクトにならず自然に引き込む。彼にとってインディアンのトントははまり役なのだ。
ローン・レンジャーことジョン・リード役は、石油王アーマンド・ハマーのひ孫アーミー・ハマー。彼の父親も巨大な富を築いた実業家だ。そんな血筋と家柄ばかりが先行してプロフィールを作っていたが、「J・エドガー」でディカプリオを愛したパートナーを演じて彼の演技力と存在感は世界に認められた。
そうなると貫禄も出てくる。自信もついてオーラも漂う。ローン・レンジャーのヒーローたる輝きが、彼にはある。
演技陣でさらに注目すべきは大悪党に扮したトム・ウィルキンソンだ。「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」で見せた、頼りなさげな初老男の弱さと孤独感こそが彼の魅力と思っていたが、こんな二面性を持つ悪党も完璧にこなせるのがすばらしい。
大義名分を堂々と口にしながら、裏腹の邪悪な下心もその笑みの端ににじませる。ああなんて巧いんだと悪党役ながら感心してしまう。
もうひとり魅力的なのがヘレナ・ボナム=カーターだ。歓楽街の酒場で女たちを使うやり手の女主人に扮している彼女の赤い髪と濃いメイクは「レ・ミゼラブル」のテナルディエ夫人を思い出させるが、顔つきは善人だ。悪党によって片足を失い、美しい絵が施された象牙の義足に銃を仕込み、ここぞという時にぶっ放す。
なんとも快感なシーンを3度堪能させてもらった。あのふてぶてしい物言いと、がらっぱちで頼もしい貫禄の中に哀感も見せて、引き付ける。
TVシリーズの時と同じロッシーニのウィリアム・テル序曲が流れ、鳥肌が立つ瞬間のなんと心地よいことか。暴走する機関車での格闘シーンは、さぞかし緻密な段取りで撮影されたことだろう。屋根の上を走り殴り殴られ、連結車両を外し、飛び越え、下にもぐり・・・縦横無尽に動き回る俳優のスタントを賞賛したい。
手に汗握る間一髪の危機に緊張が高まり、次の瞬間、ジョニー・デップのコミカルな表情に吹き出し、彼とともにうなりながら画面にのめりこむ。スクリーンでなければ楽しめないスペクタクルだ。
公開は8月2日から。夏休み、家族で出かけるのに、これ以上ふさわしい映画はない。
<合木こずえ>