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名匠ビリー・ワイルダーをこよなく愛する三谷幸喜の軽妙洒脱なドタバタ喜劇。
主演の西田敏行と深津絵里は「アパートの鍵貸します」のジャック・レモンとシャリー・マクレーンの存在感。森繁久彌の芸風を彷彿させる西田の巧みなアドリブと、滑舌明朗な深津との絶妙な掛け合いに抱腹絶倒。「お熱いのがお好き」のリズミカルなテイストも匂わせて、三谷監督の脚本の巧さに何度も膝を打つ。
西田が扮するのは421年前に無実の罪で処刑された侍、更科六兵衛。成仏できない彼は、山奥の旅館に幽霊となって現れては客を金縛りにしていた。その客のひとり、矢部五郎に妻殺しの嫌疑がかけられる。「事件があった夜は、宿で落ち武者の金縛りに遭っていた」と矢部はアリバイを主張し、深津扮するドジ続きの弁護士、宝生エミは早速宿を訪れる。その夜、確かにざんばら髪の落ち武者がエミにものしかかった。恐怖におののきつつ、エミは六兵衛に事情を説明し、法廷に連れてゆく。ところが裁判官をはじめ、ほとんどの人には彼が見えない。そこで彼女は「見えない人々」のために一計をめぐらす。
幽霊が「見える人」と「見えない人」がいるという単純な設定が面白い。見える人には共通点があり、中には立場上、見えるのに見えないフリをしている人もいて...と話の枝葉は伸びて絡まり人情喜劇のクライマックスへと近づいてゆく。
主な出演はほかに、中井貴一、浅野忠信、戸田恵子、佐藤浩市、阿部寛といった演技派の面々。なかでも今回、検事役の中井は、颯爽とまじめな顔で我々を笑わせ、芸域の広さと自身の豊かな感性を披露する。エミのボス役を演ずる阿部寛の持ち味を生かした飄々としたキャラクターも実に愉快。役者の個性や隠れた才能を生かし、作り手全員が楽しんで製作している三谷ワールド。笑って泣いて心身ともにリフレッシュして戴きたい。
<合木こずえ>