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アメリカ貧困層の子供への精神的・肉体的・性的虐待等、多くの問題が浮き彫りになる(85点)
映画『プレシャス(原題:PRECIOUS: BASED ON THE NOVEL ‘PUSH’ BY SAPPHIRE)』の主人公クレアリース"プレシャス"ジョーンズ(ガボリー・シディベ)は16歳の女の子。彼女のミドルネームが映画のタイトルになっているが、それは日本語で“いとしい”や“貴い”という意味を持つ。親の子に対する愛情が名前から分かる様な特別な名前だ。しかし、彼女の生きる現実は素敵な名前とは裏腹に、彼女の事を虫けらの様に扱う残酷なものだった。
物語の舞台は1987年のニューヨーク・ハーレム地区。読み書きが出来ない肥満のプレシャスは失踪してしまった父親カールに2度も妊娠させられ、失業中の母メアリー(モニーク)には身体的にも精神的にも虐待を受けるという痛みと孤独の中にいた。彼女の通う学校の校長(ニーラ・ゴードン)はプレシャスの2度目の妊娠を知り、彼女をオルタナティヴスクール(フリースクール)に通わせる。気の進まないままプレシャスだが、彼女はそこでレイン先生(ポーラ・パットン)という若い女性教師に出会い、読み書きを学び、閉ざされた世界に少しずつ希望を見出してゆく…。
オプラ・ウィンフリーとタイラー・ペリーという大物2人を製作総指揮に迎えた本作の原作は1996年に出版された女流作家で詩人のサファイア著「プッシュ」。ハーレムで生まれ育った監督のリー・ダニエルズは自身の過去の体験が原作とあまりに酷似している事に衝撃を受け、映画化が難しいとされてきた”意識の流れ”という文体で書かれたその小説の映像化に、ジェフリー・フレッチャーが脚色した見事なまでの脚本を基に挑んだ。
リー・ダニエルズは、特に日本では名はあまり知られていないが、ハル・ベリー主演の『チョコレート』、子供に性的いたずらをした罪で刑務所に入っていた男をケヴィン・ベーコンが演じた『THE WOODSMAN』と、問題作を世に送り出している意欲的なインディペンデント系映画のプロデューサーであり、彼はヘレン・ミレンとキューバ・グッティングJr.を主演に迎えた『サイレンサー』で2005年に映画監督デビューを果たした。前作同様、今回の監督作でも幻想的な映像を交えながら物語を語るスタイルが貫かれている。