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スペインのペドロ・アルモドバル監督が「ボルベール<帰郷>」に続きペネロペ・クルスと組んだ秀作。映画を再編集することによって、人生を取り戻す男の物語(89点)
スペインには仕事で2度行ったことがある。最初は2003年。カルモナ、セビリアなどアンダルシア地方を巡り、2度目は2004年、マドリッドとクエンカを旅した。太陽の光が違うとこうまで違って見えるのだろうか。影が余りにも濃くて、「漆黒」と呼んでいいほどの黒さなのに驚き、白はどこまでも白く、赤はどこまでも赤いという、見るもの全ての色の鮮やかさに驚いた。人々は朝から酒を飲んでいたりして余り働かず、一見、暢気で楽天主義のように見えたが、夜中まで飲み、歌い、踊る、度外れてエネルギッシュな姿には、陽気を通り越して、そうでもしなければ一日を、さらには人生を終えることが出来ないという、深い絶望も感じられた。
なぜ自分の体験を長々と書いたかといえば、あのときのスペインの空気を、ペドロ・アルモドバルの作品に感じるからだ。もしスペインを体感したいと思うなら、アルモドバル作品を見ればいい。もはや彼は巨匠と呼んでもいいかも知れない。本作は「オール・アバウト・マイ・マザー」(1998)「トーク・トゥ・ハー」(2002)「ボルベール<帰郷>」(2006)の女性賛歌三部作に比べるとやや落ちるが、それでも秀作と断言できる。あの太陽も、影の濃さも、色彩の鮮やかさも、絶望と楽観主義も、すべてが感じられるのだ。
盲目の脚本家ハリー・ケイン(ルイス・オマール)の元に、謎の男ライ・X(ルーベン・オカンディアノ)が訪ねてくることから、ハリーの隠された過去が明らかになっていく。ハリーはかつて、本名のマテオ・ブランコで、映画監督として活躍していた。だが、コメディ「謎の鞄と女たち」を撮っているとき、主演女優のレナ(ペネロペ・クルス)と愛し合ってしまったため、プロデューサーでレナの愛人であるエルネスト・マルテル(ホセ・ルイス・ゴメス)の陰謀にはめられてしまう。マテオもレナも知らない間に、「謎の鞄と女たち」はNGカットばかりを繋ぎ合わせて公開され、酷評を受ける。