「突然のパパの失踪により生じる家族の危機が、経過する時間の中でそれぞれの生きる道を見つけ、繋がっていくことで埋められていく様子をユーモラスさを交えながら描いたハートウォーミングなヒューマン・ドラマ」
|
>>拡大写真
(C)2004 Film & Entertainment VIP Medienfonds 2 + 3 GmbH & Co. KG |
大切な人が突然目の前から消え去り、そこから新たな人生を模索せねばならなくなる、という映画は数多く作られている。そこには主人公が悲しみや怒りを乗り越え、新たな自分を発見したり、それを乗り越えられずに自分を失ったりと物語の数だけの異なる結果が存在する。これは肉親との突然の別れなど現実の生活でも同様であろう。今回紹介する『ママが泣いた日』もそういった別れを契機に始まる作品である。
この作品の別れは妻にとっては愛する夫、子供たちにとっては大好きなパパが突然と消えてしまったことである。それは3年前の出来事であり、物語は「その日を境に優しいママは突然怒りっぽくなった」というこの作品の語り部である4姉妹の末娘によるナレーションで始まる。彼女たちにとって時に耐えがたく、でも結果的には大きな変化をもたらしていく日々がパパ(夫)の失踪によって始まるのだ。ママはパパがスウェーデン人の美しい秘書との不倫の果てに家族を捨てたと確信している。その女と暮らす地であるスウェーデンの家にも素知らぬふりで電話をかけ、声を確認しているのだ。優しく、人当たりのいいママはその日を境にアルコールに依存し、怒りっぽいママへと変貌していく。そんなママの前に現れたのが、パパと裏の広大な土地を一緒に開発する約束をしていた隣人の男性。この男性は地元のラジオ局のDJとして活躍する元プロ野球選手だが、彼自身も心に閉ざしたものを抱え、半ば自暴自棄の飲んだくれた生活を送っている。心に大きな傷を抱えたふたりは出会った日から一緒に飲み始め、そのうちにベッドを共にし、喧嘩をし、またより戻しという関係となっていく。そして、長女が大学を卒業間近、末娘も高校生という自分たちで生きる方向性を模索し始めている4姉妹たちにも必然的な大きな変化がやって来るのだ。
|
>>拡大写真
(C)2004 Film & Entertainment VIP Medienfonds 2 + 3 GmbH & Co. KG |
ママはパパが失踪したということを受け止められず、アルコールに溺れ、些細なことにも怒りを爆発させながらも娘たちに気持ちを依存していく。そうした部分を娘たちは受け止めながらも自分たちの道を歩み出そうとしていく。男は夫でも父親でもないが、彼女たちの接着剤のような存在となっていき、逆に彼女たちから大切なものを教えられていく。
こんな物語が自分の人生に起こったら相当に深刻であることだけは確かなのだが、そういった深刻さが傍から見るといかにおかしいか、突飛かという部分、夫に捨てられた妻と彼女を好きになった男のストレートなんだか、そうではないんだかという愛情表現、娘たちへの愛情と相違を時に不器用な人間らしいユーモラスにを交えながらこの作品は描いていく。
主人公のママを演じるのは『愛をつづる詩』で中東系の男性と不倫の恋に落ちる女性の葛藤を見事に演じていたジョアン・アレン。彼女はこの作品で2006年シカゴ映画批評家協会賞 最優秀主演女優賞を受賞しているのだが、その評価を裏付けるように夫を失ったことでたがが外れていく女性の無軌道さ、母親、ひとりの女性としての愛情表現を見事に演じている。重要なシーンで見せる眼の表情にはブルリと震え上がる男性陣も多いはずだ。また、元プロ野球選手という自信の出演作や俳優人生にもかぶるようにも感じられる役柄を演じているケヴィン・コスナーも久々に存在感を示し、長い低迷期間を抜け、今後の方向性を見出した感がある。彼もこの演技で2005年サンフランシスコ映画批評家協会賞 最優秀助演男優賞を受賞している。また、4姉妹はエヴァン・レイチェルウッド、エリカ・クリステンセン、ケリー・ラッセル、アリシア・ウィットが演じており、彼女たちもそれぞれに持ち味を発揮している。
|
>>拡大写真
(C)2004 Film & Entertainment VIP Medienfonds 2 + 3 GmbH & Co. KG |
監督はスタンダップ・コメディアンとして活躍し、監督、脚本家、役者としても活躍するマイク・バインダー。彼は「“見当違いの怒り”が(物語)全体の軸になっている。人は怒ったり困惑したりすることに多くの時間を費やすが、正しいと思ったことが後で間違いだったと気づいたり、その逆だったりする。」とこの作品について語っている。また、ベースには幼い頃の両親の離婚という現実も横たわっているという。ちなみに監督は役者としても重要な役どころで出演し、好演をみせている。
デトロイトの郊外の自然が豊かな住宅地、移り変わっていく美しい季節を背景に、それぞれが交わりながら自分の道を手にしていく様子を描いた大人たちの成長、大人への成長の物語でもあるこの作品には思わぬエンディングも用意されている。このエンディングには様々な意見があるだろうが、3年という時間でそれすらを乗り越えられるほどに彼女たちは自分の立ち位置をしっかりと確保し、それがあったからこそ、彼女たちは救われるのだろう。観れば、心が温かくなること間違いなしのコメディをまぶしたヒューマン・ドラマの小品だ。ちなみに原題は『THE UPSIDE OF ANGER』(怒りの効用)、観れば「怒ることも必要なんだよね」などと考えてしまうかもしれない。ぜひ、劇場に脚を運んでください。 |