「多くの映画ファンが気になっているだろう俳優
大森南朋の特集上映企画『天然のカオス、大森南朋』」
一目見て好きと断言できるという感じではないのだが、作品を観るごとに気になって仕方がなくなる俳優がいる。最近、ずっとそんな思いを抱いてきた俳優のひとりが大森南朋である。テレビはほとんど見ないのだけれども、たまにボーっと眺めているとなんか優しい家庭を大切にするサラリーマン役でCMに出ていたりして、驚いてしまうこともある。なんというか、変幻自在なんだな。素顔の大森南朋は知る由もないけれども、この人の役柄に対する自分の殺し方っていうのはCMも含めて、作品でみつける度に興味深く感じてきた。そんな所に興味深い特集上映が組まれることになった。それが今回紹介する『天然のカオス、大森南朋』である。
熱心な邦画ファンなら、大森南朋のことはご存知だろう。でも、まだ知らない人も多いと思うので、簡単にプロフィールを書いておきたい。大森南朋は1972年2月19日に東京に生まれている。父親はなんとあの麿赤児。1996年市川準監督の手によるCMへの出演をきっかけに役者活動を開始する。本当に数多くの作品に出演しているが、俳優
大森南朋を印象付けたのは三池崇史監督の『殺し屋1』(2001)と廣木隆一監督の『ヴァイブレータ』(2003)ではないだろうか。前者では泣き虫の殺し屋、後者では孤独なトラックドライバーを演じているのだが、「これ同じ人なの?」と思ってしまうほどの違いよう。先にも書いたが、いい意味で自分を殺してしまうんだよね。
今回の特集上映の企画書には「大森南朋とは、作品ごとに全く異なる印象を与え、一瞬見ただけでは彼と分からせない“匿名性”を武器に、この2年間で20本近くの日本映画に出演し、名監督たちの信頼を集めている俳優である。ジャンルや役柄・製作規模の大小にこだわることのない、神出鬼没ともいえるフィルモグラフィーの中から垣間見えるのは、未来永劫、観客が確固たる印象を持つ余地を与えない曖昧な存在感である。現実世界は殺伐とし、不安なことが多いからこそ、人々が求めるのはもはや癒しではなく、自分の姿と重ね合わせられるような彼のような人物なのだ。そんな、努力をしても手に入れられない“ナチュラル・カオス”な魅力を見せている作品を選んだ。」と書かれている。あきらかに納得できるのは“匿名性”と“曖昧な存在感”という部分である。例えば、今回選ばれた7日間に渡って日替わりで上映される作品(長編6作+短編4作の7プログラム)を観ていけば、大森南朋という存在は分かるが、大森南朋という実体は曖昧模糊となってしまうのではないだろうか。それが今現在の大森南朋という類稀な存在感を持つ俳優の姿であり、この姿はこれからどんどんと作品に出演していくことによって変わって行くかもしれない(そして、これが大森南朋だという姿ができあがるかもしれないのだ)。そういった意味でより大きな注目を浴びていくであろうこれからという時期にこうした特集上映が開催されるのは貴重な機会だろう。
なお、この特集上映は、上映者育成のための総合講座「第2回映画上映専門家養成講座」の実習として企画、運営されたものである。映画館のキューレターを育てる講座と考えていいのだろうが、シネコンの波に押され気味の状況の中で、こうした講座を通じて面白い企画上映をしていく場がより多く生まれればと個人的には願っている。しかもその特集上映の実習に大森南朋を選ぶなんてツボをついてくるなと思うのですが。1週間という短い期間でレイトショーのみの上映ですが、ぜひ、劇場に足を運んでください。
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