「銀河一のお尋ね者リディック。壮大なスケールで描くSFクロニクル作品の序章」
元々は作品のひとつのキャラクターであったのに、そのキャラクターを主役に新たな物語が生み出されることがある。キャラクターが主役並みの人気になったり、作品を売り出すための戦略であったりとそこには様々な理由があるのだろうが、主役を超える人気を得て、シリーズ化されることもある。今回紹介する『リディック』もそういった系譜のひとつとなるかもしれない作品である。
時は遥かなる未来。銀河世界はネクロモンガーという軍団による支配が進んでいた。しかし、殺人や脱獄の罪を繰り返し、銀河一のお尋ね者となっていたリディックにはそんなことは一切関係がなかった。今日も賞金稼ぎたちの手から逃れ続ける毎日である。そんな彼がふとしたことから、ネクロモンガーとの戦いに巻き込まれていくというのが、この作品のストーリーである。
先ほど、元々は作品のひとつのキャラクターであったのにシリーズ化されることがあると書いたが、この映画の主人公“リディック”はそのパターンに当てはまるキャラクターといってもいいだろう。このリディックが初めて登場したのは『ピッチブラック』という作品。事故のため、ある惑星に漂着した宇宙船に搭乗した様々な人物の危機とサバイバルを描いたB級SFパニック作品なのだが、この作品の主要なキャラクターとして登場していたのがリディックなのである。演じるのはヴィン・ディーゼル。この翌年の『ワイルド・スピード』、そして『トリプルX』で名実共にハリウッドを代表するアクション・スターとしての地位を確立する彼だが、この頃はまだ売り出し中の若手俳優であった。正直、ヴィン・ディーゼルがスターになったから、このリディックを主役とした続編が生まれたのではないかと考えてしまうのだが、この作品『リディック』と『ピッチブラック』の監督を務めるデヴィッド・トゥーヒーが、リディックの映画を撮ろうと思ったのは『ピッチ・ブラック』のポスト・プロダクション中だったという。その際に第一に考えたことは「続編の決め手は予想を裏切ること。同じ轍は踏むなということで、SFアクション・アドベンチャーに変更した。私たちの望みは再現でなく、変貌だった。」と語っている。再現でなく、変貌と語る監督の意向は映画全体に徹底され、プロダクション・デザイナーに対しても「どこかで見たことのあるものはボツにしろ!」と命じたという。そういった意向を汲み取って生まれた映画を構成する美術や映像、SF大作には欠かせないVFX(ヴィジュアルエフェクツ)によるCG処理はもちろんなのだが、度肝を抜くのは総面積29000uのスタジオに実際に組んだ巨大なセットである。あの岩山や砂漠もセットなのだ。このセットによる撮影がヴィン・ディーゼルなどのアクション・シーンに臨場感を生み出していることは間違いない。
出演は主役であるヴィン・ディーゼルの他に、『アイリス』、『恋におちたシェイクスピア』のジュディ・リンチ、『シャレード』、『M:i2』のタンディ・ニュートン、『シカゴ』のコルム・フィオーレ、『司祭』のライナス・ローチ、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのカール・アーバンなど。
この作品の面白さはリディックのキャラクターである。銀河一のお尋ね者であるけれどもそんなに極悪非道には感じないリディックがヴィン・ディーゼルの味わいとうまく交わっているのだ。その味わいは、自ら進んでやるではなく、なんだか知らないが巻き込まれてしまうというストーリーともマッチしている。この辺がすごく面白いのだ。だから、リディックとともに話しに引きずられ、結末になったときには続編、この後が気になって仕方なくなってしまう。もちろん、ヴィン・ディーゼルの持ち味であるアクションも全開です。スケールの大きなセット共にこの作品は、ぜひ映画館の巨大なスクリーンと最高の音響で味わってください(ちなみに『ピッチブラック』とは全く別の物語となっている作品だが、多少のつながりはあるので、ビデオでも観て、予習しておくとより楽しめるかもしれません)。
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