「田口トモロヲの驚異的な肉体改造。プロレスへの愛情に裏打ちされた人生再生の物語」
格闘技の流行が総合格闘技へと移行していく中で、史上最強の格闘技とまで言わしめたプロレスの勢いは完全になくなってしまったように感じる。その人気の陰りには、プロレス内における分裂、団体の乱立(でも、このことが総合格闘技への道も開いたのだが)など様々な要因が絡んでいる。そんな中、ここ1年でプロレスを題材にしたいくつかの面白い日本映画が登場している。若手女子レスラーの成長を描いた『ワイルド・フラワーズ』、『えびボクサー』に続いてやってきた衝(笑)撃作『いかレスラー』などである。この両作に共通することはプロレスへの愛情。そして、ここにまたプロレスへの愛情を感じさせる日本映画が登場した。それが今回紹介する作品『MASK
DE 41(マスク・ド・フォーワン)』である。
生まれてからずっと負け続けの41歳のサラリーマン。不景気の中、リストラにおびえ続ける毎日である。そんな彼の唯一の楽しみはプロレス。大学時代には学生プロレスもやっていたほどの熱狂的なプロレス・ファンである。そんな彼が会社を辞め、プロレス団体を起こすことを決意する。もちろん、家族には内緒だ。果たして、彼の人生は、プロレス団体はうまく動き始めるのかというのが、この作品のストーリー。面白おかしく展開しながらもリストラにおびえる中高年に前向きな気持ちを与える物語となっているのだが、なんといったってこの作品もプロレスへの愛情に裏打ちされているところが素晴らしい。
その最大の愛情を裏付けるのが、主演の田口トモロヲ。プロレスとは全く無縁であった彼はこの作品のために本格的な肉体改造を行うことになったのだ。監督の指示により、アテネ・オリンピック出場で話題の浜口京子の父「気合だー!」のアニマル浜口の道場に入門(アニマル浜口の「どんな肉体にしたいのか」という質問に監督は壁に貼ってあった初代タイガーマスクの最大のライバル小林邦明を指差したという。渋いエピソードです)、週三回、半年間にわたるトレーニングを続け、その後、プロレスの基本をマスターするために映画にも出演しているプロレス団体FMWに入門。脳震盪を起こしながらも必死にトレーニングを続けたという。そして、肉体改造の最後の一押しとして、科学的なトレーニングを実施。マシーン・トレーニング、食事療法などを組み合わせ、完璧に近い肉体を作り上げていった。これにプラスして、観客を入れて、実際の試合をドキュメントで撮るという監督の意向に答えるために、映画の中でも対戦相手となるプロレスラー
ハヤブサとのスパーリングも繰り返し、時間の許す限り行ったという。この執念、まさにプロレスへの愛情に裏打ちされたものとしか考えられない。
監督はCMディレクターとして活躍する村本天志。彼の長編デビュー作となるこの作品は、“熱狂的なアントニオ猪木世代”と称する自らの熱狂的な愛情、想いがこめられている。プロデュースは日本映画界にこの人物ありともいうべき、仙頭武則が担当している。出演は主演の田口トモロヲの他に、「大人計画」の松尾スズキ、筒井真理子、小日向文世という舞台を中心に幅広く活躍する俳優、伊藤歩、蒼井優という若手女優に加え、「ラーメンズ」の片桐仁、ミュージシャン、作家、音楽評論家として活躍する中川五郎など個性的な面々。前述したように、プロレス団体FMWも全面的に参加、協力している(昨年惜しくも亡くなったプロレスラー冬木弘道も出演している)。
何度も書いているが、この作品の面白さはプロレスへの愛情に裏打ちされたところにある。監督やスタッフがプロレスに愛情を感じているからこそ描くことが出来た世界が、現実的なリストラにおびえる中高年サラリーマン、崩壊しそうな家族というありがちなテーマに息吹を与えているのだ。最悪の状況を何度も乗り越えながら、自分の夢、皆の希望のために突き進んでいく田口トモロヲの姿、そして映画の山場となる試合。笑いながらも、自然と映画の中に、主人公の生き方にひきつけられていく自分を見つけてしまうはずだ。プロレス好きの方はもちろん、これから何かを始めようと考えている方など、ぜひ、劇場に足を運んでください。感動と勇気がありますよ。
|