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死んだらどこへ行くのか、
今どこにいるのか、
双子の弟が、マット・デイモン扮する霊媒師を通して亡くなった兄の霊に問う。
「なんだか宙に浮いてる感じ。
天国では何にでもなれるんだ。
ひとりでガンバレ、もう僕を頼るな。
でもずっと見守っているから。」
兄の言葉に弟は、やっと安心して笑顔を取り戻す。
霊媒師は、自分の特殊な能力に辟易している。普通の男として生きたいと願いながら、触れると感じてしまう、相手の大切な故人。恋をしても、その向こうにある重大な秘密に気づいたり、相手の秘めた過去をあぶり出して去られたり、人とのコミュケーションを取ることすらまともに出来ず彼は苦しむ。
パリで活躍する美人ジャーナリストは、恋人のプロデューサーと東南アジアで休暇中、大きな津波に襲われ臨死体験をする。九死に一生を得て、無事帰国するが、死に際で見た不思議な光景が頭にこびりつき、以前のような冴えたコメントができず戸惑う。恋人のアドバイスでTV番組を一時休み、執筆に専念する彼女は、企画した政治家についてではなく、死と霊の行方を書き上げていた。
ロンドン、パリ、サンフランシスコ。 それぞれの街で、死と霊について追求し翻弄された三人はロンドンのブックフェア会場で偶然出会う。
人は死んだらどこへ行くのか、いったいどんな気持ちになるのだろう。完全に天国へ行ってから、この世に戻ってきた人の告白を聞かない限りこの答えはわからない。
だから想像と、研究者による資料をを駆使して像を結ぶしかないのだが、イーストウッドが創り出した映像は、うすぼんやりと曖昧で、夢が覚める直前、脳裏に浮かぶ影のような人々が陽炎の中で揺れていた。
ジャーナリストの人生を変えた臨死体験で、さまよった光景がなぜこんなにも彼女を悩ませたのか、そのあたりの描写が足りないため、魂と霊にとりつかれてゆく彼女の行動に、残念ながら心はついてゆけなかった。
共感が持てるのは、やはり双子の兄を亡くした弟の気持ちだ。突然の事故で、あっと言う間に逝去した兄の不在がどうしても信じられない。どこに行ったの? 何があったの? からだ中をめぐる疑問の切なさが、幼気な表情から伝わってくる。
生前の兄がいつも被っていたキャップを肌身離さず持ち歩き、薬中毒の母親と引き離されてからは、さらに心を閉ざしてしまう。その悲しみと喪失感が、観る者の胸を詰まらせる。
演技力に拍手を贈りたいのは、この兄弟を演じたジョージ&フランク・マクラレン。実際の双子だ。
「ヒアアフター」は、触れてはならないテーマかもしれない。だが誰もが考え、想像し、胸締め付けられる世界。
自分も家族も歳老いてゆく現実を見つめる今、避けては通れない悲しみも含めて、ひとつの覚悟を促された気がする。
(Koz)