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男たちの間を渡り歩いて、まるで柳の枝のしなやかさとしぶとさで生き抜く清子というキャラクターが素晴らしい(60点)
人間の生存本能と社会性を問う、桐野夏生の同名小説の映画化だが、ヒロイン役の木村多江が絶妙にフィットしている。夫婦二人旅の途中で嵐に遭った清子と夫は、無人島に漂着。意外なほどたくましくサバイバルする清子に対し、夫はたちまち衰弱する。その島に、16人の若いフリーターの日本人の男たち、さらに6人の中国人密航者の男たちが流れ着き、男23人に女は清子1人という奇妙な共同生活が始まった。その島は東京島と名付けられ、清子はただ1人の女性として女王のように君臨するが、次第に島のバランスが崩れていく…。
無人島に複数の人間が共存すれば、必ず支配するものとされるものという命懸けの主従関係が生まれる。伊映画「流されて…」や英映画「蝿の王」を見れば一目瞭然だ。だが何事にも淡白な現代日本人が繰り広げる“東京島”でのサバイバルは、どこかピクニックのようにみえる。渋谷、新宿、東海村などの地名をつけて、みんなで仲良くツルみ、現状に甘んじる日本人集団の中で、ただ1人異質なのは清子の天敵ワナタベだが、彼とて中国人たちの逞しさの前では無力に等しい。ルールを作って秩序を保ち島に安住しようとする日本人グループと、たくましい生存本能を発揮しながら脱出計画を練る中国人グループ。そんな男たちの間を渡り歩いて、まるで柳の枝のしなやかさとしぶとさで生き抜く清子というキャラクターが素晴らしい。40代の主婦で何の特殊能力もないこのヒロインがどんどん図太くなっていく様子は滑稽なほどだ。後半、この島に別のグループが登場するところから、にわかに物語が駆け足になっていき、あっけなくラストを迎えるのが物足りないのだが、現代社会の縮図のような無人島で変化を続けるヒロインの姿は最後まで目が離せない。美しいだけでなく耐久性でも群を抜くエルメスのスカーフが重要な小道具として登場し、映画を華やかに彩っている。特に、終盤、清子がスカーフで、ある大切なものを包むのが印象的だ。単純な四角形なのに、シーツ、袋、花嫁衣装と変幻自在の形になる大判のスカーフは、前進を続けるタフなヒロインの象徴のようだった。