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ファッション界のカリスマ:トム・フォードが映画監督に!(65点)
2009年のヴェネチア国際映画祭でプレミア上映された『A SINGLE MAN』。過去にグッチやイヴ・サン=ローランのデザイナーを務め、自らのブランドをも立ち上げたトム・フォードが初めて監督した映画だ。「ファッションデザイナーが映画監督に挑戦」、という文句だけでも意見が賛否真っ二つに分かれてしまいそうだが、クリストファー・イシャーウッドの同名小説を基にデヴィッド・シェアースと共同で脚色を手掛け、スター級の俳優陣を集めたフォード氏は本作で世の普遍性を謳う。
物語の舞台は1962年のロサンゼルス。52歳のイギリス人大学教授ジョージ・ファルコナー(コリン・ファース)は16年間連れ添った年下の恋人ジム(マシュー・グード)が交通事故で亡くなってしまった事を、事故の翌日に電話で知らされる。葬儀出席までもジムの家族に拒否され、孤独で失意に暮れる彼は、長年の友人であり、ジョージに想いを寄せ続けるアルコール中毒のチャーリー(ジュリアン・ムーア)の元に半狂乱で駆け込む。
チャーリーという女性は基本的に自分本位。ジョージが落ち込んでいる時でさえも独り身の彼女自身の孤独を満たしたいのだ。どうして彼はそんな彼女と仲良くする必要があるのか。機知に富んだ会話が魅力のチャーリー。ジュリアン・ムーアが彼女を演じるとセクシーでまた可愛らしく映ってしまう。またどんなに馬鹿げた事を言ったとしても悪気の無い素直な女性だからこそジョージは時に彼女に居心地の良さを感じてしまうのだろう。
ジムのいない未来はただの孤独でしかない…。抵抗し難いスペイン人の美男子カルロス(ジョン・コルタジャレナ)の誘惑すら気にならない程、心が崩壊しきっているジョージは自らの命を絶とうと計画する。しかし、ジョージに興味を抱く大学の教え子ケニー(ニコラス・ホルト)に付きまとわれ、彼と関わっていくうちに…。
60年代初頭、それはまだ同性愛が世間的に認められていなかったとき。これはまさに、『ブロークバック・マウンテン』と同じ時期にあたる。ところが同性を愛してしまったが故の悲劇を扱ったアン・リー監督作とは異なり、『A SINGLE MAN』では、同性愛者である事の苦悩はほとんど描かれない。ジョージは自身のアイデンティティに関してオープンであるし、映画の中では特に同性愛者差別に関する問題提起はしない。本作は最愛の人を失ったジョージ・ファルコナーの1日の物語。そして生きる意味を見出そうとする彼の姿を通して、あくまでも純粋な人間性を映し出す。