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都市生活に巣食うモラトリアムという透明の闇。若手実力派俳優5人のキャスティングが絶妙だ。(70点)
都内のマンションでルームシェアする、直輝、未来、琴美、良介。彼らは色恋抜きの関係を保ち、怠惰で平和な毎日を送っていた。そこに男娼のサトルが加わり小さな変化が起こる。一方、街では連続暴行事件が発生していて…。
久しぶりに行定勲監督の才能を実感した。秀作「GO」に次ぐ出来だと思っている。もちろん吉田修一の同名小説で“怖い”と評判の原作の力は大きいが、登場人物それぞれの視点から描かれる一人称の物語5話からなる小説とは違い、映画は5人の関係性を俯瞰して淡々とみつめる。その距離感がリアルなのだ。若者のユルい共同生活には、表層的な付き合いで充足する人間関係の歪みや、日常性さえ持つ犯罪への麻痺感覚が透けて見える。
映画会社勤務で几帳面な直樹は28歳。深酒気味で自称イラストレーターの未来は24歳。23歳の琴美は恋愛依存症のフリーター。21歳の大学生・良介は先輩の彼女に恋している。何も接点がない彼らが一緒に暮らしている理由は映画ではバッサリと省略されていて、それは、いつ誰がここを出て行っても、すぐに代わりはみつかるという相対性に繋がっている。
「ここはチャットや掲示板のようなもの。嫌なら出て行けばいいし、居たければ笑っていればいい」と説明する琴美に対し、「うわべだけのつきあいなんだね」と一言で看破する男娼のサトル。彼だけは、マンションに転がり込む経緯を明確に描くのがポイントだ。一番年下のサトルは、実は誰よりも世慣れた少年で、皆が封印した感情の最もダークで傷みやすい部分に直に触れてくるトリックスターなのだ。このナイーヴな破壊者もまた、場の空気を読みながら部屋に居つくのだが、無意識のうちに秩序崩壊を加速させていくことになる。