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7月6日(土)、銀座ブロッサムにて「ワーグナー/偉大なる生涯 ディレクターズカット版 第一部」(リチャード・バートン主演)の特別上映会が行われ、600人を超える熱心な音楽、映画ファンがつめかけた。
上映前のトークショーには、音楽史研究家で映画にも造詣の深い郡修彦(こおりはるひこ)氏、Jホラーの先駆者でもあり、本作の日本上陸の仕掛け人でもある映画監督の鶴田法男氏(「リング0」「おろち」)、そして同じ映画監督仲間である篠崎誠氏(「東京島」「怪談新耳袋 怪奇」)が登壇し、この映画の魅力を熱く語った。
まずはワーグナーの人物像について問われると、郡氏から「高名な作曲家を表現する言葉は色々ありますが、ワーグナーの場合は、まさしく巨人という言葉がふさわしい」と語り、音楽のベートベンと文学のシェイクスピアの融合を目指し、見事にそれを結実させ偉大な作品群を残した反面、実生活では革命に参加して指名手配。借金を踏み倒してヨーロッパ中を逃げ回り、不倫は当たり前。更にはルートヴィヒII世王にお願いして自分の劇場を建ててしまうなど、その波乱万丈な生涯を「子供向け偉人伝には絶対に登場しない人物」と評した。
また鶴田監督は、80年代にビデオメーカーに勤めていた頃にこの作品の買い付けをしたことをが出会いになったと語り、それから映画監督になって随分たった頃、3年前に今回の企画会社の社長と食事をしていた時に「あの映画のDVDって出てないよね?」という話になり、2013年はワーグナー生誕200年になるので、それまでに絶対に出そうとその場で意気投合。
そして3年間奔走して、ようやく今回そのお披露目となる場に立ち会えたことの喜びを語った。
その過程で、監督のトニー・パーマーとコンタクトを取ったら、当時VHSで出した2時間半くらいのバージョンが実は短縮版であったこと、本当はディレクターズカット版の7時間50分に及ぶバージョンが存在すると知り是非それを出そうとなったことを明かした。
そこからは、同じ映画監督である篠崎氏とこの映画の魅力に迫るトークに。「とにかく撮影が信じられないほど凄い」と絶賛の二人。本作の撮影監督ヴィットリオ・ストラーロは「光の魔術師」の異名もある『地獄の黙示録』など、イタリアを代表する撮影監督。「例えば長回しのシーンでも画面のあらゆる場所に繊細に照明をいくつも配置している。更にその中でカメラも人物も動きまわるけれど、常にピントがしっかり合っている」ことを挙げ、それは「俳優が演技している時に、正確に止まる場所も把握していなければならない」と自然に見える画面にも、そこには撮影、照明、そして俳優の非常に高度な技術が融合して成り立っていると語った。
また郡氏も「通常の映画は既成の音楽を当てるけれど、この作品は映画のためだけにオーケストラ演奏を録音しているのも大きな特徴」と述べると、「一体製作費はいくらなんですかね…?」と司会の森洋子氏も唖然とするひとコマもあった。
この日上映された第一部は、ワーグナーがドレスデンの革命に参加しヨーロッパ中を逃げ回り大作曲家に成長を遂げていく序章の部分。これに二部と三部を合わせた全編が8月にクラシカジャパンにて放映される。また秋にはIVCよりDVD発売が決定した。
更には監督のトニー・パーマーが自らマスタリングしショルティが指揮をしたワーグナーの楽曲を集めたサウンド・トラックCDも発売予定とのこと。
生誕200年を迎える本年、ワーグナーの盛り上がりはこれからが本番。本作はあらゆるワーグナーの楽曲に触れ楽しむのは元より、それを生み出す時代背景、そして何よりワーグナー自身を理解する上で貴重な文献となる。
『ワーグナー/偉大なる生涯 ディレクターズカット版』公式サイト