
18歳のすずさんに突然縁談がもちあがり、すずさんは広島から呉へお嫁に行くことになる。1944年(昭和19年)2月のことだ。呉はそのころ日本海軍の一大拠点で、軍港の街として栄えていた。世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。
夫の両親は優しく、よくやってくる義姉の径子は厳しく、その娘の晴美はおっとりしてかわいらしい。配給物資がだんだん減っていく中、すずさんは工夫を凝らして食卓を賑あわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、日々の生活を積み重ねていく。
1945年(昭和20年)3月。呉の日常は一瞬にして破られた。空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされたのだ。軍港のある呉は重要な攻撃目標なのだ。その後も空襲は繰り返され、義父は消息不明になり、文官の夫も軍人となるべく訓練を受けることになる。
空襲は続く。大切なものも風景も失ったすずさんであったが、毎日は続く。暮らし続けなくてはならない。実家の妹・すみがすずさんの様子を見に現れ、広島に帰ろうと勧めるが、迷うすずさん。
そして、昭和20年の夏がやってくる――。