慶応四年(1868年)四月十一日、第十五代将軍・徳川慶喜は、朝廷に恭順して江戸城を明け渡し、退官のうえ水戸へ謹慎。世界の歴史にも稀な平和的政権移譲となり、三百年に亘る江戸幕府の時代が終わりを告げた。日本はそれまでの封建国家から近代国家への歩みを進めたのである。
そんな歴史の分岐点に、江戸の市中を闊歩する血気盛んな青年が二人。許嫁との婚約を破談にしてくれと申し入れにきた秋津極と、許嫁・砂世の兄で幼なじみの福原悌二郎だった。極は、将軍の警護と江戸の治安維持をはかるため有志たちにより結成されていた「彰義隊」の一員に加わっていた。高い志をもって結成された彰義隊もいまや、幕府の解体とともに反政府的な集団とみなされはじめていたのである。万が一、親族に咎めが及ばぬよう、家督を弟に譲り、上野の彰義隊の屯所に身を隠すことにした、という極。それに対し、「幕府が解体したいま、彰義隊など無用の長物」と持論を展開する悌二郎。そこに偶然、もう一人の青年が加わる。二人の幼なじみで、養父の死をきっかけに、養子に入った笠井家を体よく追い出されてしまった吉森柾之助である。出会った三人は、極の求めに応じ、写真館でぎこちない記念撮影をするのだった。
それから数日後、悌二郎は苛立っていた。結局、極は柾之助を誘い込んで、隊に戻ってしまったのだ。除隊させようと上野の屯所を訪ねると、巡回に出ている極に代わって彼を出迎えたのは、隊の穏健派の森篤之進だった。森は、悌二郎の考えに同意しつつも、極を翻意させることは難しいだろうという。新政府の誕生によって、上様の汚名を晴らしたい者たちが多数集まり、彰義隊員はすでに三千名を越えていた。極たち強硬派の本懐は、あくまで新政府を倒し幕府を再建すること。いまは隊内に彼らの暴走を抑える仲間が一人でも多く欲しいという森は、悌二郎のような者こそ、いまの彰義隊に必要だと力説する。膨れ上がった隊内はいまや一枚岩とはいえなかった。結局、悌二郎も森の説得で入隊し、極と柾之助の様子を気にかけ続けたが、極はそんな悌二郎の思いを知る由もなかった。
新たな時代の波は風雲急を告げていた。いまや江戸では官兵と隊士の衝突は日常茶飯になりつつあった。徳川家はついに彰義隊を徳川家とは一切関係がないものとし、その運命を新政府に委ねる。この決定によって彰義隊は江戸警備の立場をも奪われ、その存在を否定されてしまう。もはや強硬派が新政府軍との戦争に向かうのは避けられない。極、柾之助、悌二郎が自らに下した決断とは・・・?
新着映画情報
柳楽優弥 |
監督:小林達夫 |
2015/日本/87分 |
腹は決めた。心は迷っていた。
慶応四年(1868年)、三百年に亘る江戸幕府の時代が終わりを告げ、明治時代が幕を開けた。これはそんな激動の時代に不器用ながらも精一杯の情熱をもって生きた、幕末の若者たちの物語。
鳥羽・伏見の戦い後、将軍の警護と江戸市中の治安維持を目的として有志により結成された「彰義隊」の存在は、「新撰組」や「白虎隊」に比べると、これまであまり知られてこなかった。当初は高い志をもって結成され、江戸の民衆たちからも慕われた彰義隊だったが、幕府の解体とともに将軍慶喜が水戸に事実上追放されると、隊は強硬派と穏健派に分裂、義憤にかられた強硬派は次第に反政府的な武力集団へと変貌してゆく。彰義隊には多くの市民、ことに普通の若者たちも参加していた。本作「合葬」は、自らの意思で彰義隊に加わった青年・極(柳楽優弥)と、養子先から追い出され、行くあてもなく赴くままに入隊した柾之助(瀬戸康史)、彰義隊の存在に異を唱えながらもそこに加わらざるをえなかった悌二郎(岡山天音)の、時代に翻弄された数奇な運命を描く。
原作は今年没後10年となる漫画家・杉浦日向子が、いまや伝説の漫画雑誌「ガロ」に連載し、日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した同名漫画(ちくま文庫収録)。
© 2015 杉浦日向子・MS.HS / 「合葬」製作委員会