新着映画情報
ナレーター:東地宏樹 |
監督:酒井充子 |
2013/日本/HD/102分 |
かつて日本人だった人たちが語るそれぞれの人生
日本と台湾の解けない関係性を描き出し、劇場ロングラン・ヒットを記録した酒井充子初監督ドキュメンタリー「台湾人生」(09)から4年。東日本大震災の際、台湾からは200億円を超える義援金が寄せられ、昨年(2012年)には日本から過去最高の約144万人が台湾を訪れた。これまで以上に親しい隣人として関心を集める台湾。本作はそんな台湾と日本の抱える過去を知り、現在を見つめ、未来を想うドキュメンタリー。
台湾は1895年(明治28年)から1945年(昭和20年)までの半世紀、日本の統治下にあった。本作は、第二次世界大戦、二二八事件、白色テロという歴史のうねりによって人生を歩み直さなくてはならなかった「日本語世代」といわれる6人が、それぞれ自らの体験を語ることにより、日本人が知らない台湾の戦後の埋もれた年月を突きつける。日本が戦争に負けたことで「日本人になれなかった」と言う人、台湾に帰れなかった人。旧ソ連に抑留されながらも、そのおかげで二二八事件に巻き込まれずに済んだと笑う人。白色テロによって父親を奪われた人。青春の8年間を監獄で過ごさねばならなかった人。「本当の民主主義とは」を子供たちに伝え続けた人。彼らが口にする過去の体験は、修正できない歴史を背負っているが故に、重く切実だ。
敗戦により日本が撤退した台湾では、その後の蒋介石・中華民国国民党政権による言論統制と弾圧の時代が長く続き、国民の声は封殺されてきた。民主化が本格化したのは李登輝氏が総統に就任後、1992年(平成4年)に治安法を改正し言論の自由が認められてからのことで、それからまだ20数年しか経っていない。
「現在」を語り、「未来」を考えるうえで重要になるのは「過去」だが、その過去を正確にとらえるのは難しい。歴史は「特殊例外的」な事件のみを記し、人々の葛藤を記録しないからだ。本作は舞台を台湾、ジャカルタ、そして横浜へ移しながら、市井の老人たちの人生に寄り添う姿勢を貫く。
【二二八事件】
1947年2月27日の夜、中国人である国民党の専売局闇タバコ摘発隊が台湾人女性に対し、暴行を加える事件が起きた。これに抗議した群衆に向って摘発隊が発砲し、一人を殺害。これに対し、翌2月28日に台湾人による市庁舎への抗議デモが行われた。しかし、憲兵隊が非武装のデモ隊へ向けて無差別に一斉掃射を行い、多数の市民が死傷。これが発端となって、政府関連の諸施設への抗議行動や、中国人に対する襲撃事件が台湾全島で頻発。台湾人はラジオ放送局を占拠するなど、多くの地域で一時実権を掌握したが、国民党政府は大陸に援軍を要請し、武力によりこれを徹底的に鎮圧した。1989年に公開されヴェネチア映画祭金獅子賞を獲得したホウ・シャオシェン監督「悲情城市」はこの事件をテーマにしている。
【白色テロ】
革命運動や民主化運動などの反体制活動に対する為政者による弾圧行為のこと。強権的警察行為や言論弾圧をさす。台湾では、国民党政府により1949年から1987年まで38年間にわたる戒厳令が敷かれ、この間に数多くの人々が謂れなき罪で逮捕、拘禁、拷問、銃殺された。恐怖の空気が社会全体を覆い、台湾社会の発展に重大な影響を与えた。エドワード・ヤン監督「クーリンチェ少年殺人事件」(91)、ホウ・シャオシェン監督「好男好女」(95)など、白色テロをテーマに描いた映画も多く存在する。
【台湾小史】
◆先史時代(〜1624年)
◆オランダ植民統治時代(1624年〜1662年)
◆鄭氏政権時代(1662年〜1683年)
◆清朝統治時代(1683年〜1895年)
◆日本統治時代(1895年〜1945年)
◆中華民国統治時代(1945年〜1996年)
◆台湾総統選挙時代(1996年〜現在)