みずみずしい光を放つ大河を望む小さな町。その町の医師と、妻のマルタは、長年連れ添ってきたものの、ワルシャワ蜂起の際、ふたりの息子を亡くしたことで互いに距離ができてしまっている。そんななか夫は、自身の診断で妻が重篤な病状であることを知るが、妻へは告白できずにいる。春が終わり、夏が訪れようとしていた。そんなある日、マルタは川岸のカフェで、美しい青年を見かける。自分よりもかなり年下の若者ボグシとの出会いで、マルタは失ってきたものを反芻し、心ざわめく。そして当然のように彼の若さと純真さに魅かれていく。未成熟なうちに終わりを迎えてしまう人生と、これから人生の円熟期を迎えようとする人生の交錯。あるいは死の予感に苛まれながら、草が生い茂る川岸で青年を求めるマルタ。しかし人生は残酷な運命を二人に準備する。マルタに向かって泳いでいたボグシが、菖蒲の根に足を取られて溺れてしまうのだった…。
新着映画情報
『菖蒲』
原題:Tatarak / Sweet rush
配 給 : | 紀伊國屋書店、メダリオンメディア |
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公式HP: | 別ウィンドウで公式HPを表示 |
公開日: | 2012年10月20日 |
映画館: | 岩波ホールにてロードショー(全国順次公開) |
クリスティナ・ヤンダ |
監督:アンジェイ・ワイダ |
2009/ポーランド/ポーランド語/シネマスコープ/87分/字幕翻訳:久山宏一 |
春の終り、夏の訪れ、いのちの祝祭の時に──。
第二次世界大戦下、ソ連の捕虜となった一万人以上の将校が虐殺された<カティン事件>を描いた「カティンの森」(07)の後に、アンジェイ・ワイダが撮り上げた新作「菖蒲」は、前作とは打って変わってみずみずしい抒情に満ち、人間の根元的なテーマである「生と死」をとおして、生きることの源泉に触れた文芸作品である。
「菖蒲」の原作は、「尼僧ヨアンナ」(61)で知られるポーランドを代表する作家ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィッチの同名の短篇小説。映画「菖蒲」のシナリオは、同小説を基にしつつ、そこにシャンドル・マライの小説『突然の呼び出し』と、主演女優クリスティナ・ヤンダの手記である<最後のメモ>を加味しつつ、ワイダは「あまりにも遅く訪れる恋と、いつもあまりにも早く訪れる死」をめぐる多元的構造の物語を創造した。