1911年、夏。まだ仄暗い海原を、重苦しい煙を吐きながらゆっくりと進む蒸気船エスメラルダ。デッキの長椅子で憂鬱な表情を浮かべるのは初老のドイツ人、大作曲家のアシェンバッハ。静養のためにベニスのリド島へ向かっていた。
到着早々、醜悪な若作りの老人らに不愉快な思いをするアシェンバッハ。優雅に佇むオテル・デ・バンで支配人から最上の部屋に迎えられたが、心労で倒れたことや友人からの批判が頭をよぎり憂鬱になる。だが荷物を解くうちに気分も晴れた。その夜、夕食を待つサロンで美しい少年を目にし、心奪われる。美しい母親と妹たち、家庭教師と宿泊する14歳のポーランド人少年タジオだ。その姿を目で追うようになったある日、見つめ返されて思わず動揺。慌ててベニスを発つ決意をするが、駅に着くと荷物は手違いでコモ湖に送られていた。荷物が戻るまでベニスを離れないと、ホテルに戻ったアシェンバッハは、その日から再びタジオの姿を目で追った。
避暑の季節も終わりに近づいたベニス。コレラが蔓延し始め、地元民は口を閉ざすが観光客は次々と帰国。だが、タジオの虜となったアシェンバッハは帰らない。理髪師に促されたままの不自然な若作りでタジオを追い、強烈な消毒臭と腐臭、廃棄物を焼却する煙が漂う街を彷徨った。タジオ一家の帰国の日。アシェンバッハは人気のなくなった砂浜で病に蝕まれた身体を長椅子に任せる。そして、波光きらめく浅瀬に立ち、不滅の美を誇るかのように輝くタジオを恍惚と見つめながら、微かな笑みを浮かべ静かに息を引き取った・・・。
新着映画情報
『ベニスに死す』
配 給 : | クレストインターナショナル |
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公式HP: | 別ウィンドウで公式HPを表示 |
公開日: | 2011年10月01日 |
映画館: | 銀座テアトルシネマにてロードショー |
ダーク・ボガード |
製作・監督:ルキノ・ヴィスコンティ |
1971/イタリア・フランス/シネマスコープ/131分/英語・イタリア語・ポーランド語・フランス語 |
1911年、舞台はベニスのリド島に優雅に佇むオテル・デ・バン。まだ仄暗い海原をスクリーンが映し出し、マーラーの「アダージェット」の甘美な旋律が流れる中、静養に向かう老作曲家を乗せた蒸気船が静かに進んで行く……。絵画のような美しさを湛えたこの幕開けは、その瞬間に100年の時を超え、耽美的で官能的なヴィスコンティの世界へと観る者を誘う。
巨匠ルキノ・ヴィスコンティ(1906〜1976)の名作の中でも、「山猫」(63)と並んで屈指の完成度を誇る傑作「ベニスに死す」(71)。第24回カンヌ国際映画祭25周年記念賞に輝くこの作品は、日本では遅れていたヴィスコンティの評価を不動のものとしただけでなく、映画ファンに最も愛されるヴィスコンティ作品となった。そして製作40周年を迎える今年、待望のニュープリント版での再公開となる。
原作はノーベル文学賞に輝くドイツの文豪トーマス・マン(1877〜1955) の同名小説。主人公グスタフ・フォン・アシェンバッハは小説家だが、小説家が映画表現には不向きなこと、主人公のモデルがロマン派の大作曲家グスタフ・マーラー(1860〜1911) であることから、ヴィスコンティが作曲家に変更した。