南アルプスの麓の村まで走る路線バスに、風変わりな客が乗り合わせていた。サングラスに帽子といった出で立ちの能村治と風祭貴子である。18年前に、駆け落ちして村を離れたふたりであった。
鹿料理のレストラン「ディア・イーター」を営む風祭善は、300年の伝統を持つ村歌舞伎の公演を間近に控え、準備にいそしんでいた。その稽古場に、治と貴子が現れたのである。「善ちゃん、どうしようもなくて・・・返す」と治。貴子は前頭葉に疾患があり、記憶障害に悩まされているのだった。変わり果てた元女房を前にして、善は治を何度も殴りつけるが、気が晴れない。結局、駆け落ちしたことすら忘れてしまった貴子を、治ともども店に住まわせることになる。奇妙な共同生活が始まった。
一方、大鹿歌舞伎は公演日が迫っていた。貴子は、18年前に演じていた役柄のセリフだけはしっかりと記憶していた。そしてある日、貴子の記憶が突如として蘇る。公演当日。幕が開き、例年通り多くの観客が見守る中、善と貴子、そして村民たちが力を合わせた演目が始まろうとしていた・・・。
新着映画情報
原田芳雄 |
企画・監督:阪本順治
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2011/日本/93分 |
忘れられないけど思い出したくもない女が帰ってきた。
美しき日本の山村で<芸能の原点>を守ってきた人たちの、ホロ苦くもオカシミあふれる群像劇──。日本映画界を代表する名優・原田芳雄が「70代を迎えて、どうしても演っておきたかった」という珠玉の人間ドラマが、最高のキャスト・スタッフを得て完成した。監督は鮮烈なデビュー作「どついたるねん」以来、「KT」「座頭市 THE LAST」など計6本にわたって原田に熱い眼差しを向けてきた阪本順治。出演は原田演じる主人公・風祭善の女房役に大楠道代、女房と駆け落ちした幼なじみ役に岸部一徳、そのほか、佐藤浩市、松たか子、瑛太、石橋蓮司、三國連太郎などの豪華実力派が駆けつけ、遊び心たっぷりに脇を固めている。
さらに忌野清志郎の隠れた名曲『太陽の当たる場所』が主題歌に選ばれ、悲喜こもごもの結末を温かく包み込む。ままならぬ事情を抱えた人生と、浮き世の憂さも吹き飛ぶハレ舞台。絢爛たる舞台の向こうに見えてくる、軽妙な人間模様。日本映画が久しく忘れていた滋味深い“オトナの喜劇”が誕生した。
(c)2011 「大鹿村騒動記」製作委員会