1943年5月。KGBの幹部であるドミートリ・アーセンティエフ大佐が、モスクワのスターリン私邸に呼び出された。年老いたスターリンと面会したドミートリはピアノを弾くよう命じられ、思いがけない質問を投げかけられる。「コトフについて知っていることは?」
革命の英雄として名高い元陸軍大佐アレクセイ・セルゲーヴィチ・コトフは、かつてスターリンに背いた罪で逮捕され、記録上はすでに銃殺刑に処されたはずの人物である。しかし裏切り者の根絶に異様な執念を燃やすスターリンは、独自の情報からコトフがまだ死んでいないと睨み、ドミートリに彼の捜索を厳命する。
コトフとドミートリの間には深い因縁があった。かつて嫉妬心にかられてコトフを強引にクレムリンへと連行したのは、ほかならぬドミートリ自身だった。コトフの若く美しい妻マルーシャは、ドミートリの元恋人だったのだ。マルーシャを取り戻したドミートリは、彼女とコトフの間に生まれたひとり娘ナージャを密かに匿ってやる。それが反逆者の家族が生き延びられる唯一の道だった。かくしてスターリンの命を受けたドミートリは、さまざまな複雑な思いに駆られながら、戦時中のコトフの消息をたどっていく…。
1941年6月。コトフは多くの政治犯たちとともに劣悪な強制収容所で重労働を強いられていた。折しも同月22日にソ連への侵攻を開始したドイツ軍の戦闘機が飛来し、まともに爆撃を浴びた収容所はまたたく間に火の海と化す。からくも収容所を脱したコトフは、逃走中に川に身を潜め、ドイツ軍から逃げ惑う大勢の農民の凄まじいパニックを目撃する。
同じ頃、ドミートリの計らいで党の少年少女団に所属していたナージャは、意思の強い少女へと成長し、今なお5年前の夏に突然姿を消した父親コトフへの思慕の念を抱いていた。そのことを諫めるドミートリに反発したナージャは、彼がふと垣間見せた困惑の表情から重大な事実に気づく。「…お父さんは生きているのね?」
同年8月。従軍看護師となったナージャは、子供や傷病兵とともに赤十字の船に乗り込み、海上でドイツ軍機と遭遇する。ひとりの傷病兵の錯乱した行動に激高した敵のパイロットは、赤十字の船を攻撃してはならないという戦争協定を無視して一斉射撃を開始。船は沈没し、乗船していた兵士と子供の大半が還らぬ人となった。危ういところを司祭に救われたナージャは、機雷にしがみついて海を漂いながら洗礼を授けられる。そして浜辺への生還を果たしたナージャは、生き別れた父親を捜し出すことこそ自分に与えられた使命なのだと改めて心に誓う。
同年10月。懲罰部隊に一兵卒として加わったコトフは、雪と霧に煙る平原でドイツ軍の進撃を阻止するための要塞の建造に従事していた。国家のために尽くしてきた英雄のコトフにとってそれは屈辱的な仕打ちだったが、陽気なならず者ばかりで構成された懲罰部隊の居心地は不思議と悪くなかった。やがて若い士官候補生のエリート部隊が合流し、要塞造りは急ピッチで進められるが、突如、想定外の方向からドイツの戦車軍団が押し寄せてくる。貧弱な装備しか与えられていないコトフの部隊は、為す術もなく敵に蹂躙され、雄大な雪原は死屍累々の地獄絵図へと変貌。生き残ったのはコトフとほんのわずかな仲間だけだった。
お互いがどこにいるのか知る由もなく、戦場をさまようコトフとナージャの脳裏をよぎるのは、あの夢のような幸福で満たされていた1936年夏の美しい情景だった。はたして心から再会を願う父と娘は、奇跡をたぐり寄せることができるのか...。
新着映画情報
『戦火のナージャ』
配 給 : | コムストック・グループ/ツイン |
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公式HP: | 別ウィンドウで公式HPを表示 |
公開日: | 2011年04月16日 |
映画館: | シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー |
ニキータ・ミハルコフ |
監督:ニキータ・ミハルコフ |
2010/ロシア/シネマスコープ/SRD/150分 |
お父さん、生きていますか?
カンヌ映画祭とアカデミー賞を制し、全世界を涙で濡らした不朽の名作「太陽に灼かれて」から16年、ロシアの巨匠が放つ入魂の超大作。
1994年にロシアで生まれた1本の映画が、世界中の観客に忘れえぬ感動と衝撃をもたらした。カンヌ国際映画祭審査員グランプリとアカデミー外国語映画賞をダブル受賞したその映画「太陽に灼かれて」は、巨匠ニキータ・ミハルコフが古き良きロシアへの郷愁をこめた美しい情景の中に、男女3人の狂おしいまでに数奇な愛憎模様を紡ぎ上げたラブ・ストーリーである。ペレストロイカ以前はタブーとされていたスターリンの大粛清という歴史の闇に切り込んだこの映画は、「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」「黒い瞳」や近作「12人の怒れる男」といった幾多の傑作を世に送り出してきたミハルコフ監督の紛れもない代表作となった。
本作「戦火のナージャ」は、「太陽に灼かれて」から実に16年の時を経て完成した続編である。1936年夏のわずか一日の出来事を描いた「太陽に灼かれて」は、主要登場人物の非業の死によって完結したかに思えたが、本作では実は生き長らえていた彼らがさらなる過酷な運命をたどっていく様を描く。物語の背景となるのは、第二次世界大戦中に繰り広げられたソ連とドイツの全面戦争だ。とりわけ思い入れの深さを感じさせるこの企画に取り組んだミハルコフ監督は、準備&製作に8年もの歳月を費やし、ロシア映画史上最大となる巨額の製作費を投入。ミハルコフ作品特有の格調高い映像美学が遺憾なく発揮されているのはもちろんのこと、壮大なスケールの面でもハリウッド超大作を凌駕せんとする破格のヒューマン・スペクタクル劇に仕上がった。