「誰かに必要とされるってことは、誰かの希望になるってことでしょ。」
東京郊外のまほろ市に住む多田啓介は、結構まじめに便利屋をやっている。どこか暗い影を持ちながら淡々と仕事をこなす多田のもとに、ある年の正月、中学の同級生・行天春彦が転がり込んでくる。行天は昔、一言も口を聞かない変な奴だったのに、今ではよく喋る変な奴になっていた。共にバツイチで三十路。事情も言わず「今晩泊めてくれ」と頼む行天。断りながらも結局、「今晩だけだぞ」と応じる多田。その時、多田はまだ知らなかった。行天の居候が一晩だけでは終わらないことを。そして行天を助手に迎える多田便利軒が、どこまでも果てしなく他人の人生に入り込んでいくことを……。