37歳になったワタナベはドイツ行きの機内でビートルズの「ノルウェイの森」を耳にして18年の前のことを思い出す。18年前に自分が恋に落ちた直子のことを。直子はワタナベの高校時代の親友のキズキの恋人だった。ワタナベにとってとキズキは唯一の友であり、必然的にワタナベと直子も一緒によく遊んでいた。
ところが、ある日突然キズキは誰にも何も言わずに自殺をしてしまう。親友を喪ったワタナベは誰も知っている人間がいないところで新しい生活を始めるために東京の大学に行く。そして、あるとき中央線で直子と偶然再会する。それからワタナベと直子はお互いに大切なものを喪った者同士付き合いを深めていく。ところが、付き合いを深めれば深めるほど直子の方の喪失感はより深く大きなものになっていった。
そして、20歳になった直子は結局、京都の病院に入院することになる。そんな折にワタナベは大学で、春を迎えて世界に飛び出したばかりの小動物のように瑞々しい女の子・緑と出会う―。
新着映画情報
松山ケンイチ |
監督・脚本:トラン・アン・ユン |
2010/日本/シネマスコープ/PG12 |
限りない喪失と再生−生と死、性、青春のもがきを描く、究極の恋愛物語
1987年に刊行され、それまでの国内小説の発行部数記録を塗り替えるベストセラーとなった『ノルウェイの森』(講談社刊)。主人公ワタナベの喪失と再生を描いた究極の恋愛物語に人々が動かされ、時代が動かされた。画期的な赤と緑の装丁も話題となり、当時はその本を持つこと自体が1つのステイタスにもなった。そんな20世紀を代表する恋愛小説は21世紀になった今も読み継がれており、その国内発行総累計部数は920万部(2009年4月時点)を突破している。更には、その小説世界は日本だけでなく世界をも魅了しており、現在までに36言語に翻訳されて各国で熱狂的なファン(ハルキスト)を生み出している。村上春樹は現在世界でもっとも有名な日本人作家と言っても過言ではない。
そして、出版から20年以上の時を経て『ノルウェイの森』が遂に奇跡の映画化を果たす!
「奇跡の映画化」という言葉は頻繁に使われるためにその言葉の持つ本当の意味はほとんど伝わらなくなっているが、今回の『ノルウェイの森』の映画化に関してはこれは本当に奇跡以外の何物でもない。村上春樹作品はリアルでありながらファンタジックでもあり、読み始めたら止まらなくなるストーリーテリングの妙味を持ちながらその物語自体には深遠な哲学性を内包しているという、それこそ1つの奇跡といえるような唯一無二な世界観を保持している。その独創性に多くの人々が魅了されているわけなのだが、反面その独創性ゆえ映像化は極めて困難と言われていた。中でも特に『ノルウェイの森』はその静謐な美しさを映像で表現するのは不可能だと思われてきていた。
ところが、そんな不可能の扉を叩いたのが、今回の監督であるトラン・アン・ユンだった。ベトナム系フランス人監督であるトラン・アン・ユンはパリで『ノルウェイの森』を読んだときにその死生観を孕んだ美しい世界観に感動し、すぐに映画化を思い立った。しかも、原作に心酔した彼が考えたのは日本人による日本語での映画化だった。
「力強く繊細であり、激しさと優雅さが混沌としていて、官能的かつ詩情にあふれている。」
トランは「青いパパイヤの香り」「シクロ」「夏至」などの作品で叙情性溢れる映像美で人間の機微を静かに、でも温かく描くことに定評のあった監督で、すでに名だたる国際映画祭の常連監督でもあった。そして、村上春樹もそんなトラン作品の持つ美しさに魅了されていた一人だった。そして、2004年5月。同じく映画化の構想を温め続けていた小川真司プロデューサー(アスミック・エース エンターテインメント)の紹介の元、二人は邂逅する。
「『ノルウェイの森』という作品は自分にとって特別な作品であり、映像化は無条件でOKというわけにはいかない。でも、トラン監督の作品は好きで、とにかく会ってみようと思った。」
村上春樹のこの発言が第一歩となり、『ノルウェイの森』の映画化への扉が開かれた。それからトラン監督による映画脚本化の作業が進められ、途中何度もあった消滅の危機を乗り越えて最終的な完成形を見るまでに実に4年の歳月を擁した。そして、2008年7月、『ノルウェイの森』の映画化が正式に発表される。そのニュースは日本列島に大きな衝撃を走らせた。通常こういった映画化のニュースはスポーツ新聞等でのみの発表になるのだが、「ノルウェイの森映画化」のニュースは一般紙でも報じられた。それはまさに1つの事件だった。
それから話題となったのは誰がワタナベをやるのか?誰が直子をやるのか?誰が緑をやるのか?ということだった。誰もがそれぞれのワタナベ、直子、緑を思い浮かべ、それぞれの『ノルウェイの森』を心に描き、或る時は会社で、或る時は教室で、或る時はネット上でその話題を他人と共有した。そして、その話題への回答は最高の形で整えられた。
主人公のワタナベには「L change the World」「DMC」「カムイ外伝」など毎作毎作全く異なった表情を見せる若手演技派No.1の松山ケンイチ。死と生の間でゆれるワタナベの脆さと強さの両方を体現できる役者は今の日本で彼をおいて他には存在し得ないだろう。直子には「BABEL」で第79回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、最新主演作「マップ・オブ・ザ・サウンド・オブ・トーキョー」が第62回カンヌ国際映画祭のコンペ部門に正式出品された国際派女優・菊地凛子。世界を魅了したその圧倒的な演技力で我々の想像を上回る直子像を現出してくれることだろう。そして、緑には新人の水原希子を大抜擢。トラン監督が“特別な何かを持っている”と絶賛したその限りない可能性は、大型新人の登場を予感させる。さらに、ワタナベと直子の同級生のキズキには「フィッシュストーリー」「ソラニン」など出演作の相次ぐ高良健吾。ワタナベの大学の先輩の永沢には「NANA」「GOEMON」「ハゲタカ」など銀幕にクールな印象を残し続ける玉山鉄二。直子の入院先の同室人のレイコには美しい佇まいで数多くの映画、TVに出演している霧島れいか。
また、ザ・ビートルズの『ノルウェイの森』(Norwegian Wood)が主題歌として使用許諾されたことも、画期的なことだ。