<まだ若い廃墟>
その冬、海炭市では造船所が一部閉鎖され、大規模なリストラが行われた。町中がその行方に注目し、揺れ動く組合員たち。颯太は、ストの甲斐もむなしく職を失ってしまう。大みそかの夜、妹の帆波と2人きりで寂しく年越しそばを食べていると、年が明けた。そして、2人はなけなしの小銭を集め、初日の出を見るために山に登ることを思い立つ。しかし、2人そろって帰りのロープウェイに乗れるだけのお金はなく、兄は歩いて山を下りることに…。
<ネコを抱いた婆さん>
70歳になるトキは、産業道路沿いに建つ古い家に住んでいた。地域開発のため、周辺の家は次々と引っ越していき、いまや残っているのはトキの家1軒だけであった。市役所に勤めるまことが立退きを説得しに来るも、トキは断固として拒み続けた。「来年もここにいる。そん次の年も。そん次の次の年もだ。」そんなある日、飼い猫のグレが姿を消してしまった…。
<黒い森>
比嘉隆三は、プラネタリウムで働く49歳。仕事から帰ると、妻の春代は派手な格好に厚化粧をし、仕事へと出かけて行った。ひとり寂しく夕飯を食べる隆三。中学生になったひとり息子はすっかり口をきかないようになった。ある日、春代が仕事に行ったまま一晩帰ってこなかった。腹を立てた隆三は春代を問いただすが、それは2人の距離を遠ざけるだけであった。そしてある晩、ついに隆三は春代に仕事を辞めさせようと、春代が働く店へと車を走らせる…。
<裂けた爪>
父親から代々続くガス屋を継いだ晴夫は、新しく始めた事業がうまくいかず、日々苛立ちをつのらせていた。家庭では、再婚した元同級生の勝子が、晴夫の不倫に気づき、その嫉妬心から、晴夫の連れ子であるひとり息子のアキラを虐待していた。ある日の仕事中、いつも通りの手順で、重たいLPガスボンベを車から降ろそうとした晴夫は、うっかり手を滑らせ足の指の上に落としてしまう。膿んだ足を引きずり帰ったその夜、アキラの顔には殴られたようなアザがあった…。
<裸足>
長年、路面電車の運転手を務める達一郎は、路面電車の前を通り過ぎる息子の博を見つけた。博は東京で働いており、仕事のため地元に帰ってきていたのだが、父親と会おうとせずにいた。年が明けたある日の昼下がり、お墓参りではち合わせた達一郎と博。2人は帰りのバスに揺られ、何年か振りの短い会話を交わす…。
新着映画情報
『海炭市叙景』
配 給 : | スローラーナー |
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公式HP: | 別ウィンドウで公式HPを表示 |
公開日: | 2010年12月18日 |
映画館: | 渋谷ユーロスペースにて、他全国順次公開 11月27日 函館先行ロードショー |
谷村美月 |
監督:熊切和嘉 |
2010/日本/DTSステレオ/152分 |
わたしたちは、あの場所に戻るのだ。
村上春樹、中上健次らと並び評されながら、文学賞にめぐまれず、90年に自らの命を絶った不遇の小説家・佐藤泰志。『海炭市叙景』は、彼の故郷である函館をモデルにした“海炭市”を舞台に、そこに生きる人々の姿を描き出す未完の連作短編小説。やはり北海道出身の熊切和嘉監督が、遺された18の短編小説の中から、5つの短編を選び、脚本の宇治田隆史とともにモザイクを組み合わせるように、“海炭市”とそこに生きる人々の姿を浮かび上がらせた。
(c)2010佐藤泰志/『海炭市叙景』製作委員会