
ロシアの偉大な文豪レフ・トルストイの献身的な妻、情熱的な恋人、ミューズ、そして協力者として、50年近く結婚生活を送ってきたソフィヤ伯爵夫人の世界が、ある日突然ひっくり返る。新たに起こした宗教の名のもとに、トルストイが爵位や財産、そして家族さえも捨て、貧困と菜食主義と独り身になることを選んだのである。
トルストイの信頼する弟子であり、自分が忌み嫌うウラジミール・チェルトコフが、新しい遺書に署名するよう夫を説得したらしいと知ったソフィヤは、激しく憤る。その遺書には、トルストイの作品に関する権利を、家族ではなくロシア国民に与えると書かれていたのだ。彼女は、自分のものだと信じているものを失うまいと、知恵や魅力を総動員して猛然と戦う。そして「その行動が過激になればなるほど、トルストイの輝かしい遺産にダメージを与えるだろう」というチェルトコフの言葉が説得力を増すことになっていく。
この地雷原ともいえる関係に、トルストイを崇拝する世間知らずの新しい助手、ワレンチン・ブルガコフが迷い込む。彼は、策略家チェルトコフと復讐に燃える傷心のソフィヤが、互いに相手の利益を損なおうとする争いのなかで、まずチェルトコフに、次にソフィヤに駒として利用されそうになる。そしてワレンチンの人生をさらに複雑なものにするのが、マーシャへの情熱的な想いであった。トルストイの唱える理想主義の信奉者であるマーシャの、セックスや愛に対する型破りな考え方に、ワレンチンは惹きつけられるが、同時に困惑する。トルストイのいう理想の愛に心酔する一方で、彼の波乱万丈な結婚生活に戸惑うワレンチンには、現実の世界における複雑な愛の対処術はまだ会得できない。
一方、自分を取り巻く環境があまりにも複雑になりすぎたことから、世界一の有名人トルストイは、ついに82歳にして、真夜中に家出を図る。そしてソフィヤは取り巻きたちが押し留めるのを振り切って、トルストイが病に伏すアスターポヴォ駅へと特別列車を仕立て、ロシアを横断する・・・。