北海道、4月。まだ風が土を愛でるこのとのない厳しい寒さの中、忠男は孫の春と共に気の乗らない旅にでることになる。足を痛め、春の面倒なくしては生きられない元漁師の忠男。小さな町で仕事を失ってしまった18歳の春。祖父と孫のささやかな二人暮らしを社会のシステムが呑み込んでいき、無念のなか、二人は忠男の最後の住まいを求めて、疎遠となった親類縁者を訪ね歩く東北への旅に出る。それは、行き先はあっても、戻る場所はないかのように思われた旅の始まりであった・・・。
兄夫婦や弟夫婦との気まずい再会で炙り出される、むきだしの、しかし尊い感情。ある事実を隠しながら懸命に生きる弟の内縁の妻。厳しくも暖かく迎え入れる姉・・・。過去から逃れることができず、避けてきた感情や事実と向き合わざるを得なくなった忠男。そんな祖父の葛藤やもがきを一緒に体験せざるをえない春にも、やがてある感情の芽生えが起こってくる。その変化は、忠男と春を生きることそのものの根幹にゆるやかに近づけるのだった。
新着映画情報
仲代達矢 |
原作・脚本・監督:小林政広 |
2010/日本/ヴィスタビジョン/DTSステレオ/134分 |
やがて涙は、生きる歓びに・・・
生きることは厳しい。しかし人生には、その終焉にですら、誰もがたどり着ける暖かな場所が準備されている――。そんなありふれた事実を真摯に、しかし切実に綴り、生きることとは何なのかという永遠不滅のテーマを孕んだ骨太かつ繊細な日本映画が誕生した。
原作・脚本・監督は、「愛の予感」で2007年の第60回ロカルノ国際映画祭金豹賞(グランプリ)を含む4賞を受賞し、最新作「ワカラナイ」も2009年ロカルノ国際映画祭で3度目のコンペ出品を果たした小林政広。 繊細に時に雄大に、優しく包み込むようなテーマ曲を提供したのは、故高田渡氏らとともにフォークバンド結成後、数々の音楽シーンに名を残す佐久間順平。主演は、脚本に惚れ込み、渾身の演技で元漁師の忠男を演じる仲代達矢、その孫娘・春に徳永えり。その他のキャストも日本映画界を代表する名優が脇を固める。
(c)2010『春との旅』フィルムパートナーズ