
北海道、4月。まだ風が土を愛でるこのとのない厳しい寒さの中、忠男は孫の春と共に気の乗らない旅にでることになる。足を痛め、春の面倒なくしては生きられない元漁師の忠男。小さな町で仕事を失ってしまった18歳の春。祖父と孫のささやかな二人暮らしを社会のシステムが呑み込んでいき、無念のなか、二人は忠男の最後の住まいを求めて、疎遠となった親類縁者を訪ね歩く東北への旅に出る。それは、行き先はあっても、戻る場所はないかのように思われた旅の始まりであった・・・。
兄夫婦や弟夫婦との気まずい再会で炙り出される、むきだしの、しかし尊い感情。ある事実を隠しながら懸命に生きる弟の内縁の妻。厳しくも暖かく迎え入れる姉・・・。過去から逃れることができず、避けてきた感情や事実と向き合わざるを得なくなった忠男。そんな祖父の葛藤やもがきを一緒に体験せざるをえない春にも、やがてある感情の芽生えが起こってくる。その変化は、忠男と春を生きることそのものの根幹にゆるやかに近づけるのだった。