ありふれた夢は高くつく
ロンドン南部に暮らすブレイン家の長男イアンは、父親が営むレストランで働きながら、バラ色の未来を思い描いていた。カリフォルニアのホテル事業に投資し、そのリターンを元手にビジネスマンとして新たな人生を踏み出す。それが労働階級の日常に満足できないイアンの夢だった。
イアンほど切れ者ではない弟テリーの夢は、もっとささやかで現実的なものだった。自動車修理工場に務める彼は、酒とギャンブルをこよなく愛し、さしたる不満もない気楽な日々を送っている。いずれ優しい恋人ケイトとの庭付きマイホームさえ手に入れられれば、何もほかに望むものはなかった。
内に秘めた夢も性格も対照的なのに、持ちつ持たれつの良好な関係を保っているイアンとテリーは、格安の6000ポンドで売りに出されていた小型クルーザーをローンで共同購入する。テリーがドッグレースで大穴を当てた犬の名にちなんで“カサンドラ・ドリーム”と名付けたその船は、前の所有者が死亡した処分品だったが、兄弟はそんな不吉なことに気も留めず、快適な初航海を満喫するのだった。
まもなく“カサンドラ・ドリーム”が幸運をもたらしてくれたかのように、イアンは運命的な出会いを経験する。郊外の田園地帯をドライブした帰りに、車の故障で立ち往生しているアンジェラという若い女優を助け、そのお礼として彼女が出演中の舞台に招待されたのだ。アンジェラは上昇志向が強く、つねに周りには男の影がちらついていたが、聡明で美しい彼女はひたすら眩しい存在だった。やがてテリーの修理工場から借りた高級車でリッチな雰囲気を演出し、港町ブライトンに繰り出したイアンは、モデルの仕事を終えたアンジェラとホテルで結ばれ、自らの人生がぐんぐん輝き始めたことを実感する。
ところが思わぬ落とし穴が待っていた。テリーがマイホームの資金ほしさに危険なポーカー勝負に手を出し、ヤミ金相手に9万ポンドもの借金をこしらえてしまったのだ。テリーに泣きつかれたイアンはレストランの金庫からこっそり親父の金を持ち出すが、それも焼け石に水。でかいセリフを吐くくせに根が小心者のテリーは、頭を抱えて縮こまるばかりだ。
そのとき奇跡のように救世主がロンドンに舞い降りた。カリフォルニアや中国で美容関係の事業を行っている伯父のハワードが、家族と会うためにやってきたのだ。一族きっての成功者であるハワードならば、きっとテリーの借金もイアンのホテル投資話の軍資金もやすやすと肩代わりしてくれる。ところがハワードは「実は君たちに相談がある」と意外な交換条件を切り出した・・・。