2009年の9月、スクセ ナオミは階段から落ちた。文字通り、頭から、サカサマに。
軽度の頭部外傷”“逆行性健忘症”。救急車で病院に搬送されたナオミは、2005年から4年間のキオクを失っていた。ナオミに残された最新のキオクは、病院まで付き添ってくれた、ちょっと陰のある、ハンサムで大人びた、ユウジという男の子と交わした、救急車での会話。「あなたは … 私の、カレシなの?」「君にはアメリカ人でイケメンのカレシがいるよ。でも、キスしたいと思っていたんだ」 そう言って彼は、モウロウとしたナオミの目の前から、消えた。その姿をナオミの心に焼き付けて。
退院して久しぶりに登校したナオミを待っていたのは、無くした記憶だった。ナオミは、東京のインターナショナルスクールの女子高生“だった”らしい。しかし、4年間のキオクを失ったナオミにとっては、学校の全てが初めての景色だった。見覚えのない校舎、親しげに話しかける見知らぬ教師たち、友達と称する初対面の人々…。
そんな、混乱するナオミの心に、学校で孤立しているユウジの姿は、するすると入り込んできた。事故の夜以来の再会だった。兄を亡くし、リストカットの痕があるユウジには、いつも悪い噂が付きまとっていたが、それでも彼にどうしようもなく惹かれていくナオミ。
「以前から親友だった」と言うミライは、右も左もわからなくなったナオミを優しく助けてくれる頼れる存在だが、何故か、惹かれあうナオミとユウジを止めようとする。ナオミはそんなミライの気持ちを量りかねて、戸惑う。
そんな中、“カレシ”のエースは記憶を失ったナオミがどんどん変わっていくことに苛立ち、「君はそんな女じゃなかった」と責めるが、ナオミにはどうする事も出来ない。度重なる眩暈とフラッシュバックに映し出される、「顔の見えない誰か」とのキス。キオクを無くす前のナオミは、本当は誰を愛していたのか...。今のナオミは誰を愛するのか...。そして、誰が、本当にナオミを愛していたのか...。