堕ちていくほど、美しい。
貴族院議員の父親を持ち、津軽では有名な資産家の息子・大庭葉蔵。作り笑いをこっそり練習し、体育の授業ではわざと失敗を装って、みんなの笑いを買う。人間というものがよくわからない葉蔵にとって、周囲となじむには“道化”が唯一の手段だった。だが、そんな葉蔵の計算はクラスメイトの竹一に見抜かれてしまう。あせって竹一に取入った葉蔵は、彼からある予言をうける。それは、女にモテるということ、そして偉い絵描きになるということ。
竹一の予言どおり、葉蔵は女に不自由することがなかった。飲み屋の芸者たち、何かと部屋を訪ねてくる下宿先の娘・礼子、金なしで酒を飲ませてくれるカフェの女給・常子。中でも常子に自分と同じ寂しさを感じた葉蔵は、ある日、鎌倉の海で心中を図る。だが、死んだのは常子だけだった・・・。