その夜、満場の聴衆が詰めかけたハンブルクのコンサートホールで、ピアノを演奏するクララ・シューマンを、固唾を呑んで見守る2人の男がいた。1人は名作曲家として知られる夫、ロベルト・シューマン。そしてもう1人は、当時はまだ無名の若き作曲家、ヨハネス・ブラームス。
演奏を終え、拍手喝采を浴びるクララに紹介されて壇上に引っ張り出されたロベルトは、しかし「人気取りは嫌だ」と憮然と舞台から降りる。そして、押し掛ける観客たちにもみくちゃにされるシューマン夫妻は、背後から見知らぬ男に呼び止められた。それがヨハネスだった。作曲家だという20歳の彼との運命の出逢いを感じたクララは、ロベルトの制止を振り切るように、波止場の薄暗い居酒屋に足を運ぶ。そこでピアノを演奏するヨハネスの才能を瞬時にして見抜いたクララは、豪奢なコンサートドレスに縫い付けられた真珠を切り取る貧民など気に留まらぬほど、彼の演奏に聴き惚れた。
翌日、デュッセルドルフに到着したシューマン一家を待っていたのは、ロベルトの地元交響楽団の音楽監督就任と、これまで暮らしたことのないような大邸宅だった。家政婦と料理人にかしずかれた新生活は、クララには家事の多忙さから解放され、未来の幸福を約束しているように見えた。しかし、新しいピアノを前に「作曲を再開したい」と顔を輝かせるクララに、ロベルトは「私の妻では不満か?」と問いただすのだった。
その頃から、ロベルトの持病である頭痛が悪化の一途を辿り始める。指揮はおろか、交響曲「ライン」の作曲さえままならない夫の一大事を救わんと、クララは指揮者として楽団員の前に立つ。「女性の指揮など前代未聞」「世の笑い者だ」との嘲笑にも耳を貸さずタクトを振り続けるクララは、コンサートマスター、タウシュの意に反して、たちまちオーケストラから見事な演奏を引き出した。
そんなある日、シューマン邸に思いがけない来客があった。ヨハネス・ブラームスだ。軽々と逆立ちを披露し、たちまち夫妻の子供たちの人気者になるヨハネス。こうして、シューマン一家とヨハネスとの奇妙な同居生活は始まった・・・。
新着映画情報
『クララ・シューマン 愛の協奏曲』
原題:GELIEBTE CLARA
配 給 : | アルバトロス・フィルム |
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公式HP: | 別ウィンドウで公式HPを表示 |
公開日: | 2009年07月25日 |
映画館: | Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー! |
マルティナ・ゲデック |
監督・脚本:ヘルマ・サンダース=ブラームス |
2008/ドイツ・フランス・ハンガリー/ヴィスタビジョン/ドルビーSRD/109分 |
シューマンとブラームス、二人の天才が魅せられた女神ー
ドイツ・ロマン主義華やかなりし19世紀ヨーロッパの音楽界に咲いた一輪の名花、クララ・シューマン。世紀を代表する2大作曲家、ロベルト・シューマンとヨハネス・ブラームスのミューズとして知られるクララは、彼女自身も作曲家、そしてプロのピアノ演奏家として広く活躍する才気あふれる美貌の音楽家だった。「クララ・シューマン 愛の協奏曲」は、2人の作曲家との波乱に満ちた愛の日々を生きたクララのキャリアと家庭との相克を、ロベルト・シューマンの『ピアノ協奏曲イ短調』や『交響曲第3番 ライン』、ブラームスの『ピアノ協奏曲第1番』など、おなじみの名曲をふんだんに散りばめて格調高く描いた真実の物語である。
主人公クララを演じるのは、「マーサの幸せレシピ」でドイツ映画賞主演女優賞など国内外の映画賞を総なめにし、アカデミー賞外国語映画賞受賞作「善き人のためのソナタ」での美貌の舞台女優クリスタ役で国際的に脚光を浴びたマルティナ・ゲデック。