いけちゃんは、9歳のヨシオにしか見えない不思議ないきもの。いつの頃からかそばにいて、海でおぼれかけたり、憧れの美人女子高生みさこと話してドキドキしたり、牛乳屋にいたずらをしたり……というヨシオの日常を見守っていた。
ヤスとたけしにいじめられたヨシオは、学校をサボっていけちゃんと一緒に山登りをする。「復讐の練習をしよう」と、アリの巣へ熱いお茶を入れたり、トンボの頭をちぎって万華鏡に入れたり、チョウチョの羽にノリを塗り、ノートに貼り付けたり。やがて、ふたりに殴られたことを思い出し悔し泣きするヨシオ。そんなヨシオにいけちゃんは言う。
「大人になって好きな人ができたら、このことを話すといいよ。好きな人がわらってくれるよ」。
家に帰ると、学校をサボったヨシオを怒るお父さんがいた。息子の危機を守る父として家を飛び出すが、ヤスとたけしの父親に恐れをなしてUターンをし、どこかに行ってしまう。次の日、子供の喧嘩に親が口出ししたことでヤスとたけしに呼び出されるが、そこに先生がやってくる。お父さんが事故で死んだことを告げにきたのだ。事態を理解できないヨシオに、いけちゃんはそっと寄り添う。
「世界中で人より早く大人にならないといけない子供っているんだよ。君もその中のひとりなんだよ」。
早く大人になろうと決心したヨシオは、その日から毎日ごはんを三杯食べ、牛乳屋の清じいに空手を教えてもらうようになる。お母さんは昼も夜も働きにでるようになっていた。ひとりのお風呂や、寝る前の電気が消えた部屋を怖がるヨシオに、怖くないように一緒にいてあげるいけちゃん。
「いつまでもいけちゃんはそばにいられないから。ともだちを見つけて、早く、ゆっくり大人になってね」。
それでいてヨシオが女の子と遊んでいるのを見つけると、真っ赤になって怒りだす。この時、ヨシオは初めて「いけちゃんは女なんだ」と気付くのだ。
ある日、今日はラッキーなことがあるよ、と言ういけちゃんの言葉で外にでたヨシオは、ヤスとたけしとの喧嘩の最中、初めて1発殴り返すことができた。ちょっぴり成長したヨシオを、優しく寂しげに見つめるいけちゃん。何故それを知っていたのか不思議がるヨシオに、いけちゃんは言う。
「いけちゃんね、ここで会う約束をした人がいるの。私が先にきちゃったから、まだずっと先になるまで待ってるの」。
ヨシオは一人きりで隣の、隣の、その隣町まで冒険に出た。お父さんが死ぬ直前に会っていた愛人がいるらしい。が、そこで評判の悪ガキたちにつけいられ、彼らはその後ヨシオの町の野原にまで襲撃しにくる。ヤスやたけしも交えてケンカになりそうなところで突然、「勝負は野球でやろう!」と提案するヨシオ。みんなの野原を守るために機転をきかせたヨシオは、たくましく、賢く、成長をとげていた。と同時に、ヨシオにいけちゃんが見えなくなることが多くなっていく。そしてとうとうヨシオの少年時代が終わろうとするとき、いけちゃんは決心する。
「もうこんな形で会えないかも知れないから、私がほんとは誰なのか、言いたい」と。
それはあまりにも切なく、思いもよらない告白だった・・・。