もう、逃げられない...
激しい嵐が過ぎ去った後の浜辺で、ひとりの青年が目を覚ました。全身に激烈な痛みを感じ、意識が混濁している彼は、名前すら覚えていないようだ。しかし自分が何者かに追われていることを思い出した青年は、その場に現れた不思議な少年に導かれるように、ふらつく足取りで砂浜から道路へたどり着き、偶然通りかかった車に乗せてもらう。ドライバーの男は青年の手首に刻まれた手枷の傷痕を確認し、ハバナの旧市街にある妹マヌエラのアパートに向かった。兄から押しつけられるようにして青年を一時匿うはめになったマヌエラは、不安を覚えながらも高熱で倒れた彼を手厚く介抱してやった。
やがて意識を取り戻した青年の脳裏に、グアンタナモ収容所でのおぞましい記憶が甦る。「アルカイダの一味か?」「お前の名前は?」 米軍兵士によって果てしなく繰り返される尋問。椅子に拘束されたまま水浸しの頭巾を被せられ、窒息寸前の恐怖を味あわされた拷問...。眠りに落ちた青年のアラビア語でのうわ言を聞いたマヌエラは、彼がグアンタナモを脱獄してきたのではないかと警戒する。しかし「君は俺の天使だ」と純粋な瞳でつぶやく青年の誠実さに心打たれ、彼をもうしばらく匿ってやる決意を固めるのだった。
なおも青年は、サディスティックな女看守の幻影や囚人仲間の老人が首を吊った記憶に苦しめられる。しかしマヌエラの5メートル後ろを歩くという約束のもとで外出を許された彼は、ハバナの猥雑なエネルギーに満ちた空気に触れ、クラブのダンサーとして働くマヌエラの官能的な踊りを目の当たりにし、少しずつ生気を取り戻していく。
青年はマヌエラへの熱い想いを胸に秘め、マヌエラもまた彼をかけがえのない存在だと気づき始めていた。ついにふたりはアパートで激しく愛を交わす。しかし青年は、マヌエラのパトロン的な存在の不気味な老紳士に恐怖心を抱いていた。その老紳士はなぜか青年がグアンタナモからの逃亡者だと鋭く見抜き、脅迫的な言葉を投げかけてくるのだ。身の危険を感じた青年は、マヌエラに一緒に島を出ようと懇願する。
そんなとき青年の目の前で、交通事故に遭ったマヌエラが病院に運び込まれるという悲劇が起こった。その痛ましいショックと、執拗につきまとってくる謎の老紳士への恐怖に心をかき乱される青年。再び極限の混乱状態に陥ってしまった彼は、ついに自らの本当の過去と向き合うことになる。グアンタナモで彼の身にいったい何が起こったのか。それは青年自身の想像すら超越した衝撃の真実だった...。