1944年12月25日、ナチス・ドイツは連合軍との戦いに相次いで敗れ、完全な劣勢に陥っていた。そんな国家存亡の危機にナチスきってのアイデアマンである宣伝大臣ゲッベルスは、ある名案を思いつく。来る1945年1月1日、ヒトラー総統の演説の場をベルリンに設け、100万人の市民を前にした雄々しいスピーチを何台ものカメラで撮影。それをプロパガンダ映画に仕立ててドイツ中で上映し、国民の戦意を劇的に高揚させようというのだ。すでにベルリンの街は廃墟と化していたが、たいした問題ではない。建築家でもある軍需大臣シュペーアが巨大なオープンセットを造り上げ、ヒトラーのパレードを盛り上げる手はずになっていた。ところがこの計画には大きな問題があった。肝心のヒトラーが心身を病んで自信喪失しており、とてもスピーチなどできる状態ではなかったのだ。
ヒトラーをわずか5日間で再生するための教師として、ゲッベルスが白羽の矢を立てたのはアドルフ・グリュンバウム教授だった。戦前には世界的なユダヤ人俳優として名を馳せたグリュンバウムは、かつてヒトラーに発声法を指導した実績があり、総統の内にくすぶる執念を甦らせるには最適の人物と見込んだのだ。グリュンバウムはザクセンハウゼン強制収容所からベルリンの総統官邸へと移送された。サンドイッチを与えられ、ゲッベルスと対面したグリュンバウムは自らが置かれた皮肉な状況に戸惑いを隠せなかったが、収容所に残された妻エルサや4人の子供と一緒に暮らせることを条件に、困難な任務を引き受けることにする。愛する家族を救うには、それ以外の選択肢はない。しかし同胞のユダヤ人のことを思えば、これは憎きヒトラーを殺す千載一遇の機会でもあった。
トレーニングの初日、グリュンバウムはヒトラーを運動着に着替えさせ、彼の体をほぐすことから始める。しかしいきなりハプニングが起こった。ボクシングのポーズをとり、ユダヤ人を侮辱する言葉を発したヒトラーを、ついパンチでノックアウトしてしまったのだ。意識を取り戻したヒトラーからは何のお咎めもなく、ほっと胸をなで下ろしたグリュンバウム。心理セラピーを開始すると、ヒトラーは父親に抑圧された幼少期を思い出し、涙を流すこともあった。ふとしたスキに凶器を手にしたグリュンバウムは独裁者の殺害を試みるが、トラウマに取り乱すヒトラーの哀れな姿を目のあたりにして実行を思いとどまる。
そしてヒトラーは見違えるように最盛期を彷彿とさせる威光を取り戻したが、演説を翌日に控え、思わぬトラブルが発生。メイク担当の女性が誤ってヒトラーの髭を半分剃り落としてしまったのだ。自慢の髭を失ったヒトラーは激しく動揺し、失語症に陥ってしまう。ここでも頼れる存在はグリュンバウムだった。グリュンバウムがステージの下に身を隠して演説原稿を読み上げ、ヒトラーが口パクで聴衆にアピールするという段取りが急遽整えられる。しかし演説当日、グリュンバウムはヒトラーさえも想像しない驚くべき行動に出るのだった...。
新着映画情報
『わが教え子、ヒトラー』
配 給 : | アルバトロス・フィルム |
---|---|
公開日: | 2008年09月06日 |
映画館: | Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー |
ウルリッヒ・ミューエ |
脚本・監督:ダニー・レヴィ |
2007/ドイツ/ヴィスタビジョン/ドルビーSRD/95分 |
史実をベースに独裁者ヒトラーが新たな視点で描かれた!
1944年12月、連合軍との戦いに疲弊しきったナチス・ドイツの命運は、もはや風前の灯火だった。宣伝相ゲッベルスは来る新年の1月1日に、ヒトラー総統の大演説によって国威を発揚する起死回生の計画を思いつく。しかし肝心のヒトラーは鬱状態で、執務室に独りで引きこもっている有様。わずか5日間でヒトラーに全盛期のカリスマ性を取り戻させるという困難な任務を託されたのは、元俳優のユダヤ人教授だった・・・。
数々の映画祭に出品され、本国ドイツで大ヒットを記録した本作は、悪名高き独裁者アドルフ・ヒトラーの人物像を新たな視点で掘り下げた話題作。世界的な大反響を呼び起こした「ヒトラー 〜最期の12日間〜」、アカデミー外国語映画賞を受賞した「ヒトラーの贋札」などを例に挙げるまでもなく、21世紀の今もナチスとヒトラーは歴史映画の重要なモチーフであり、語られるべき多くの真実が未だに眠っている。その流れを汲む本作は、"ヒトラーに演説指導した人物が存在した"という驚くべき史実にアイデアを得て、そこにフィクションを巧妙にを織り交ぜ、衝撃と感動のヒューマン・ドラマに仕上げた。