「2005年、限定的にリユニオンされたロック・バンド
フィッシュマンズ。そのツアーFISHMANS present “THE LONG SEASON REVUE”を中心にフィッシュマンズの生み出したもの、様々な想いを捉えたライブ・ドキュメンタリー」
レイトショーや単館規模での公開が中心だが、音楽をテーマとしたドキュメンタリー作品は熱心なファンを集め続けている。そのほとんどが海外の伝説的なミュージシャンに関するものなのだが、今回紹介する作品『THE LONG
SEASON REVUE ザ・ロング・シーズン・レビュー』は日本の伝説となってしまったミュージシャン(バンド)のリユニオン・ツアーを捉えた作品である。
ここで取り上げられるミュージシャン(バンド)はフィッシュマンズという。このサイトを見ている映画ファンの中で彼らのことをご存知の方がどれくらいいるのかは想像がつかないが、決して多くはないだろう。昨年は未発表音源も含む新たなベストアルバムも2種類発売され、新たなファンも獲得したフィッシュマンズはボーカリストでソングライターでもあった佐藤信治の誰もが想像もしなかった突然の死という形で1999年に活動を停止している。その時のメンバーは佐藤信治と現在は東京スカパラダイスオーケストラで活躍する茂木欣一のふたり。その前の年の実質的には最後のライブとなったステージでベースの柏原譲が脱退を表明し、これから新たなフィッシュマンズとしてスタートを切ろうとしていた年の初めの出来事だった。フィッシュマンズというバンドを説明するのは難しい。最初はRCサクセション的なノリを持ったバンドだった。それがデビュー盤となったファーストアルバムでロック・ステディ(スカとレゲエの中間期の歌もの)的な歌とリズムが持ち味のバンドに変わっていく。これはメンバーも認めているが、プロデューサーを務めた
こだま和文の影響が大きかったと思うし、こだまがフィッシュマンズにリズムの面白みを教え込んだことも確かだ。この後、彼らは歌ものの良さも保ちながら、レゲエの要素のひとつであるダブなど、よりリズムに執着した音響的な世界へと踏み込んでいく。40分1曲の「ロング・シーズン」という曲はそんな彼らがたどり着いたひとつの到達点であったのかもしれない。彼らはこの曲によって様々な方面から圧倒的な評価を獲得していく。
僕自身はフィッシュマンズを“東京”という街に暮らし、浮遊する感覚を見事に捉えたバンドだったと考えている。フィシュマンズのメンバーの出身がどこであろうが、フィッシュマンズというバンドはあの頃の“東京”のアパートなどに暮らす感覚を見事に捉えていた。詩人としての佐藤信治は切ないほど素晴らしかったし、死後に詩集を出版した編集者の眼も素晴らしいと感じた。音でしか評価されないバンドだと感じていたから、なお更だった。1980年代の終わりから1990年代の東京の一部を体現していたバンドがフィッシュマンズなのだ。
佐藤信治の死後もフィッシュマンズは解散をせずに、それぞれのメンバーとファンの意識の上に存在し続けていた。リユニオン・ライブも最初のDVDの発売を記念して行われている。そして、再び、2005年にリユニオン・ライブが行われた。この作品『THE
LONG SEASON REVUE ザ・ロング・シーズン・レビュー』はその記録であり、フィッシュマンズを愛した人々の記憶でもある。ベスト盤を発売し、毎年、北海道で開催されている“ライジング・サン・ロック・フェス”でリユニオンを果たしたフィッシュマンズは東名阪でのライブを開催することになる。チケットはどれもあっという間にソールドアウト。東京の公演(AX)では、ないチケットを求める人の列が波のように連なっていたという。信じられない話だが、それが今のフィッシュマンズの影響力なんだろう。当時のライブの動員数は軽く越えている。生きている時に来てやれと思うかもしれないが、多くの観客は佐藤信治がいたフィッシュマンズを体験できなかった新たなファンのはずだ。ライブにボーカリストとして登場するのは山崎まさよし、UA、ハナレグミ(永積タカシ)、原田郁子(クラムボン)、蔡忠浩(bonobos)、ポコペン(さかな)、Pod(Moderndog)、キセル、竹中直人(彼のみリユニオン・ライブではなく、東京スカパラダイスオーケストラの冷牟田主宰のクラブイベント(taboo)でのライブ映像)。バックはあの当時のフィッシュマンズを支えた面々である。これに小田島等、よしもとよしとも、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)、大森南朋などフィッシュマンズに対して深い思い入れを持つ面々による様々な映像表現が挿入されていく。
手持ちのビデオカメラ1台で捉えた“ライジング・サン・ロック・フェス”での久々のリユニオン(清志郎の姿もある)の映像から始まり、その後に東名阪で決定したライブのためのリハーサル、リユニオン・ライブを佐藤伸治在りし日のフィッシュマンズの映像、アーティストによるトリビュート映像を挟みながら綴っていくこの作品は、ライブの全体像を捉えるのでもなく、楽屋裏を徹底的に捉えるのでもなく、詳細なインタビュー、コメントなどがあるわけでもない。でも、ここにはフィッシュマンズというバンドへの愛情が満ちている。登場するボーカリストたちは彼らと深い交流を持っていた人物、持っていなかった人物、それぞれが自分なりの想いをこめてフィッシュマンズの曲を歌う。そこから感じられるのは回顧的な意味合いではなく、佐藤伸治が歌うことの素晴らしさであったりもする。そして回顧的ではないという部分では、リユニオンされたフィッシュマンズの演奏が明らかに進化していることもそうである。メンバーたちはそこから先に歩み出しているのだから、当然でもある。回顧的ならやる意味など微塵もないはずだ。伝説になってはいけないのだ。
“ライジング・サン・ロック・フェス”でステージを終えた茂木が「すごい幸せだった」と満面の笑みで語るシーンから、大阪での鳴り止まぬアンコールの中、「まだ出来るよ。やっちゃおう。」というひと言でステージへと上がり、ステージ、客席全員のアカペラで、デビュー曲である「ひこうき」を歌うシーンで作品は幕を閉じる。結局、佐藤伸治が永遠の眠りについたときにフィッシュマンズという名を背負っていたのは茂木であった。それ以前のライブに通っていたファンなら、バンドにおける彼の比重の大きさはよく分かっていると思う。彼の気持ちが継続させるフィッシュマンズという類まれなバンドのこれは終わらない始まりの記録であり、昔からのファンはもちろん、新たなファンにも受け入れられていく作品だろう。関心があるなら、音響もいい映画館で、存分に味わってほしい。
なお、この作品は東京と大阪で全く別バージョンの内容として公開される。膨大な映像があるからこそ出来る試みではあるが、後にDVDになるとはいえ、ファンにとってはたまらないものがあるはずだ。 |