「チンパンジーの快演、どこから見てもおかしな日本の風景など、世代に関係なく家族の皆で楽しめるファミリー・ムービー」
家族皆で観て楽しめる“ファミリー向け”映画の公開が減ってきた気がする。“ファミリー向け”映画とはその名の通り、お父さんから子供までが一緒に楽しめる無害なエンタテインメント作品のことで、学校が休みになるシーズンにはそういった映画が必ず公開されてい(今でもその色を残しているのは『ハリー・ポッター』シリーズくらいだろうか)。そういった“ファミリー向け”映画の主役となっていたもののひとつが動物たちだった。今回紹介する『スパイモンキー』は久しぶりに登場した動物が主役の“ファミリー向け”映画だ。
作品はタイトルが表すように、スパイのチンパンジー(モンキー)が主役の作品である。冷戦が終結した直後には、スパイ小説は生きていけるのかなんて論議も盛んになったが、その後のやはりスパイは必要だったという世界情勢の動きなどはこの作品には一切関係がない。この物語が描くのは地球征服をたくらむ悪に正義が立ち向かうという単純明快な図式なのだから。もちろん、正義はスパイモンキーの側である。
物語はスパイモンキーが砂漠で囚われの身になったコンビを組むスパイを救出し、発射寸前のミサイルを爆破するという正にスパイらしいミッションのシーンからスタートする。ちょっと『アラビアのロレンス』かと感じさせる導入部、柔軟な体を十二分に利用したアクション、そして『007』シリーズ的な脱出方法といい、ここだけどもとにかく痛快でよく出来ているのだ。実はこのシーンは大統領も一目置いていたこのコンビの10年前の最後のミッションであった。それは男が娘を育てねばならなくなったためで、男は退屈な保険屋となり、チンパンジーは男が紹介したサーカスへと入っていた。その時から10年、このコンビが再結成をする日がやってくる。それは成長し、素晴らしい科学的な発明をした男の娘が悪の手により誘拐されたからだった。
娘に自分はスパイだったんだよと話しても「お父さんは保険屋でしょう」と信じてもらえなかった男と、サーカスの大スターでありながらも夜毎にベッドの上で思い出のアルバムを手に涙にくれるチンパンジーの必然的ともいえるコンビの復活に、彼らの片腕であった秘書もあの当時のスーツを無理やり体に通し、陣頭指揮でオフィスを立ち上げる。しかもそこには特殊な能力を持ったチンパンジーのサーカス仲間も参加する。仲間の協力体制の下で最強のスパイ・コンビは敵へと立ち向かっていくというのも、その敵がちょっと間抜けだというのも、誘拐された娘がその敵よりも機転が利くというのも分かりきったことなんだけど、それでも物語の展開などはよく出来ている8ボンドガール的な女性まで登場する)。
実はこの作品には大きな見所がもうひとつある。それは娘が誘拐されて連れて行かれる地である日本。これが今時ないくらい日本ではない日本になっている(それを狙って作る作品もあるが、この作品はそうは思えない)。一瞬、本当の東京らしき街が映るけれども、それ以外はどうみてもどこかのチャイナタウン。日本語のイントネーションも変だし、大体、日本人らしき人物が出てこない。お約束の忍者も登場(この忍者の大御所を昨年亡くなった“パット”モリタが演じている)。その日本での舞台はチャイナ・タウンの東京から日本アルプスの立山へと移るのだが、この立山もまったく違う・・・・。この辺りは別の意味での楽しみどころになっています(考えてみれば、オープニングのアラブのどこからしきシーンも無茶苦茶だし)。
監督は日本ではこの作品が始めての劇場公開作品となるロバート・ヴィンス。製作者としても活躍してきた人物だが、監督としてこだわりを持って制作しているのが、チンパンジーを主人公としたファミリー向け作品(『天才チンパンジー
ジャック/スケートボードに挑戦』などは日本でもDVDで観ることができる)。とにかく楽しい作品を撮り、それを伝えたいという思いがあるようなのだが、観れば、そうした思いは伝わってくるはずだ。ちなみにこの作品『スパイモンキー』は日本が世界に先駆けてのロードショー公開地となる。この後で公開されるアメリカでは大手の配給会社による大規模な公開も決定しているようだ。
主役のチンパンジーの身のこなしには本当に脱帽だが、それ以外にも様々な楽しみがあるちょっとした息抜きには最高の作品『スパイモンキー』。最近ではなかなかなかった“ファミリー向け”映画にもなってるので、ぜひ、子供たちと楽しんでもらえればと思います。 |