「『プリティ・ウーマン』のゲイリー・マーシャル監督が、突然3人の子持ちとなったひとりのキャリア・ウーマンが悩み、愛され、勇気付けられ、成長していく様子を描いた、コメディ・タッチのじーんとくる作品」
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ジュリア・ロバーツの人気を決定的にした作品『プリティ・ウーマン』(ロイ・オービソンのエヴァー・グリーンなテーマ曲も印象的だった)。この作品を監督したゲイリー・マーシャルはラブ・コメディ、恋愛もので定評のある監督だが、日本では『プリティ・ウーマン』の大ヒット以降、多くの作品に“プリティ”という冠がつくようになってしまった。『プリティ・リーグ』、『プリティ・ブライド』、『プリティ・プリンセス』、『プリティ・プリンセス2』、分かりやすく、訴えやすいが、これら全ての作品の原題には当然“PRETTY”という単語はない。監督ゲイリー・マーシャル、主人公が女性で恋の絡んだ話となると、タイトルに“プリティ”とつけられてしまうという、スティーヴン・セガールの“沈黙”のような呪縛があるようなのだ。ということで今回紹介する『プリティ・ヘレン』ももちろん、ゲイリー・マーシャル監督による作品である。
『プリティ・ヘレン』の原題はもちろん『PRETTY HELEN』ではなく、『RAISING
HELEN』という。日本語にすると“ヘレンを育てる”、“ヘレンを元気にする”、“ヘレンを昇進させる”など色々な意味合いに受け取れるのだが、その意味合い通りのテイストが映画にも満載されている。
物語の主人公であるヘレンはNYのモデル・エージェンシーで働く、バリバリのキャリア・ウーマン。ボスの信頼の置ける片腕として、世界中を飛び回るのはもちろん、夜も最先端の場所に顔を出し、モデルと自分を売り込んでいる。もちろん、最高のアヴァンチュールもある。そんなハードな仕事と私生活を最高に楽しんでいるヘレンの生活を一変する出来事が起きる。長姉夫婦が事故で亡くなり、残された3人の子供たちをヘレンに預けるようにという遺書が残されていたのだ。良妻賢母の次姉ではなく、子育ての子の字も知らず、バリバリのキャリア・ウーマンとして働き続ける末っ子のヘレンという選択に周囲からは反対が起きるが、ヘレンは子育てを請け負うことになる。
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仕事と子育ての両立というのは相当にヘビーである。子育てと仕事のどちらがヘビーかと聞かれれば、子育てだろうとも思う。身内として、傍から眺めていてそう感じざる得ないのだ。映画であるから、誇張はされているが、ヘレンにもそういった事態が襲い掛かり始める。まず、今よりも広いアパートメントを探さなければならなくなる。マンハッタンに暮らす人間として、クイーンズやブルックリンに行くことだけは避けたかったヘレンだが、レント料の高さから、仕方なくクイーンズへ引っ越す(警備システムつきとなっているこのアパートのそれは住民による監視システムである)。次に当然のように仕事が立ち行かなくなり、出世のチャンスもふいになり、クビを宣告されてしまう。やむなき理由とはいえ、子供を引き取ったことにより、ヘレンは今までの自分の生活の全てを失ってしまうのだ。
彼女が引き取った子供たちは反抗期の盛りの長女、小学生の弟、幼稚園児の次女と年齢も離れている。長女が自宅でいかにものパーティを開けば、次女は寂しさに耐えられなくなる。これは仕方のないことだが、ヘレンはそうした子供たちに対して怒るということが出来ない。そこで頼りにするのが、良妻賢母の姉やアパートの隣に暮らすインド系の母親、そして彼女の子供たちが通うルター派の学校(この学校に子供たちを放り込む経緯も面白い)の校長先生という身内や地域のコミュニティーで暮らす人々である。例えば、インド系の母親の紹介で彼女は地域の中古車屋に就職が決まり、そのインド系の母親や姉により子育ての本質というものを教えてもらう。そして、あの校長先生とはちょっといい関係にもなっていくのだ。ヘレンは元々持っていた性格に加え、最先端でバリバリと働いていた頃とは別の人間関係をここで手に入れ、成長していく。良妻賢母でお堅いと思っていた姉(プレゼントはいつだって手作りのポプリだ)とも初めて本気でぶつかり合う。そこで初めて気づくこともあるのだ。
主演のヘレンを演じるケイト・ハドソンをはじめ、ジョーン・キューザック、ジョン・コーベットヘクター・エリゾンドなどの役者陣が持ち味を発揮しているのもこの作品の大きな魅力だろう。特に光っているのが、次姉を演じるジョーン・キューザックだ。
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作品もうひとつの魅力はNYという街だろう。前半のマンハッタンの風景はありがちなのだが、クイーンズに移動してからのあのアパートメントのたたずまいなどは行ったことのある方はもちろん、一昔前のNYがNYらしかった雰囲気を感じる方もいるのではないだろうか。ちなみに、マンハッタンに近いクイーンズの一帯が舞台となっているが、実際にあの辺りにはインド人街がある(駅名は忘れたが、この作品の舞台はそこのはず)。アパートメントの入り口でドミノなどに興ずるオヤジの様子もいかにもな光景だ。マンハッタンのセントラル・パーク・ズーのシーンも印象に残る。この作品のプロデューサーは「NYで撮影することが、何より大切。ヘレンがマンハッタンからクイーンズへと移動するのを視覚的に見せることが、ストーリー全体に関わっている。」と語っているが、正にこの作品のもうひとつの主役はマンハッタンだけではないNYなのである。
オリジナル・タイトル通り、ヘレンが成長し、愛され、勇気付けられていく様子を描いたこの『プリティ・ヘレン』は働く女性、子育てをする女性にとっては大きな共感となるだろうし、そういった部分を持たずとも大いに笑い、ラストにはじーんとくる物語となっている(個人的にはDEVOネタに大笑い)。ぜひ、劇場に脚を運んでください。 |