「『たまもの』のいまおかしんじ監督が描く、下北沢を舞台にした希薄な、だけど必要な女の子の友情を描いた青春映画」
その内容の面白さから特集上映が組まれたりと熱心な映画ファンを集めていたピンク映画の作品が徐々に一般劇場でも観られるようになってきた。その大きなきっかけとなったのは一昨年に公開された
いまおかしんじ監督による『たまもの』だったのではないだろうか。その いまおかしんじ監督のピンク映画の最新作が一般劇場公開されることになった。それが今回紹介する『かえるのうた』である。
『たまもの』(ピンク公開時タイトル『熟女・発情
タマしゃぶり』)の一般劇場公開はレイトショウでの期間限定ながらも、その質の高さから連日多くの人が詰め掛けた(場合によっては立ち見まで出た)。この作品はちょっとシュールでオフビートな感覚のある物語の良さはもちろんだが、主演の惜しくも亡くなってしまった林由美香のほとんど言葉を発せず、表情で全てを表現する演技が圧倒的な作品だった。僕自身は遅ればせながら、この作品を契機に現在のピンク映画の世界に少し足を踏み入れ、その世界の面白さを堪能させてもらった。ピンク映画の歴史と裏側を捉えたピンクリボンも本当に興味深い作品だった。
今回紹介する『かえるのうた』は『たまもの』的な感覚を感じさせながらも、それ以上のいまおかしんじ監督が持つ世界を示した作品である。『たまもの』的な感覚は人間の持つ日常での孤独、それを埋めたい気持ちを描いている面であるし、それ以上の世界とはその辺にいる普通の女の子たちの生活を描いた面である。ピンク映画だから当然、絡み、セックスのシーンはあるが、そういった部分も含めてこの作品は普遍的かもしれない、今の青春映画になっているのだ。
物語の舞台は東京の下北沢。主人公は若い女性ふたりである。浮気癖のある彼氏に呆れ果てケンカの末、漫画喫茶へと駆け込み夜を明かそうとする女性。続きものの漫画をどさっと積み上げ読もうとしているところに、そのマンガを横取りしようとする女性が現れる。漫画を巡り、取り合いのケンかとなるふたりだが、その数日後にはなんとなくも一緒に暮らしていく関係へとなっていく。ふたりは似ているようで、全く対照的な人間。アパートの主は漫画家を目指しながらも、体を売ること(援助交際)で生活を成り立たせている。彼氏から逃げて転がり込んだ方は子供がいる幸せな家庭を夢見て、服飾の仕事で頑張っている。でも、そんな彼女も相手の関心を引き止めたいがためからか、自らの体を売ることに入り込んでいく。
売春をどこかで否定していた方が、それに身を染めた夜、ふたりはなんとなくパーティーなんかをやったりするのだけれども、この作品で描かれるのは都会にアパートなんかを借りて、ひとりで暮らすことの孤独とそこにある希薄な繋がりなんだろうなとは誰もが感じるはずだ。親元を離れて、どこかで孤独を感じながら生きてきたことのある人にはあまりにも身近な世界であるかもしれない。だから、希望がちょっと絶望的な展開で終わった後に現れる展開にはこみ上げてくるような喜びすら感じてしまうはずだ。そこの部分が本当に素晴らしいのだ。主人公ふたりの生活は相当に孤独だ。でも、この孤独が当たり前なんだと感じられる人なら、この作品に描かれている浮かれ気分やそれとは逆に辛辣になる気持ちも分かるんじゃないだろうか。他人に優しくもするけど、自分にも優しくして欲しいという気持ちがここにはきっちりと描かれている。絡みのシーンはいくつもあるが、それすらも含め、この作品には都会で暮らす若者の普通の孤独が抽出されているのだ。
作品はちょっと微笑ましいようないまおか監督らしい笑いにも満ちている。例えば、フランスパンをライトセーバーのように振り回し、男の浮気相手と殴りあうシーンなどだ。そして、タイトルにもあるようにかえるの着ぐるみ、ぬいぐるみ、タイトルソングとも言うべき、能天気だけど、ちょっと悲しさもある歌(「かえるのうた」)が印象的に使用される。
ジャンルはピンク映画だけれども、都会に孤独に暮らす若者たちの普遍的な青春映画であるこの作品『かえるのうた』、女友達、彼氏、ひとりでと、都会の夜(レイトショーです)にぜひ、ご堪能ください。 |