「昨年は本格的ミュージシャンデビューも果たしたスティーヴン・セガールといえばこれでしょうの“沈黙シリーズ”の新作は南米ウルグアイを舞台にテロリスト、銃、爆弾、カンフー、車などが乱れ飛ぶサスペンスタッチのアクション作品」
驚くべきことに、昨年(2004)はミュージシャンとしてアルバム・デビューまで果たしてしまった俳優スティーヴン・セガール。その筋ではギター・マニアとしても知られ、ミュージシャンとしての腕も一級品であると言われていた彼が全てオリジナル曲で挑んだ、大人のブルージーな世界に驚いた方もいるのではないだろうか(なんと、ゲストにはスティーヴィー・ワンダーまで参加)。でも、スティーヴン・セガールといえば、やはりアクションである。そしてセガールのアクションといえば、これに尽きるという“沈黙シリーズ”の新作が公開される。それが今回紹介する『沈黙の追撃』である。
この“沈黙シリーズ”は誰もが知っているようにシリーズものではない。1993年に日本で公開された『沈黙の戦艦』(あくまでよく出来た邦題で、オリジナルタイトルは『UNDER
SIEGE』(包囲されて)という)のヒットを受けてのものだった。実はこの1作目と3作目の『沈黙シリーズ第3弾/暴走特急』(オリジナルタイトル『UNDER
SIEGE 2』)は関連しているので、このふたつはシリーズものとしてもいいのだが、その他は日本オリジナルのシリーズ企画“沈黙シリーズ”なのである。こういった手法は今でもビデオ・リリースなどではよく用いられているのだが、劇場公開作でもこの手法が用いられているものとなると、この“沈黙シリーズ”くらいしか思いつかないという、ある意味で相当に素晴らしく、恐ろしいものなのである。ま、観る側にとれば、無敵のスティーヴン・セガールがいかに活躍するかという作品でもあるので、セガール来ましたねえという符丁にもなっているのだが。
この作品『沈黙の追撃』の舞台となるのは南米のウルグアイ。ここに拠点を置く反政府テロ組織とその組織に加わり、自分の研究を推し進めようとしていた博士が悪夢のような計画を進めていた。それはマインド・コントロール、洗脳による人間の支配だった。大使を殺され、送り込んだ兵も奪われたアメリカのCIAは最後の手段として、軍の職務違反で逮捕されていたスティーヴン・セガール演じる人物を送り込むことを決定する。セガールは同じように政府の囚われの身となっている優秀な、信頼できる仲間と共にウルグアイへ向かい、テロ組織の壊滅を目指すしていく。
この作品ではスティーヴン・セガールの仲間たちの活躍が光っている。潜水艦の操縦士、爆発物のプロ、射撃の名人など彼、彼女らはそれぞれに見せ場を持ち、存分に活躍をしていく。親玉のセガールはその活躍を横目に楽しむといった感じで、彼の本領というべきアクションはちょっと少なめ。でも、その少なめの分を1時間半という枠の中によくぞこれだけ詰め込んだと感嘆すべき(!?)ストーリー展開が補ってくれる。まずはウルグアイに到着した彼らは秘密基地へのトンネルの中で戦車+中隊規模の軍隊相手に派手な銃撃戦をやらかしてくれる。この舞台は次に潜水艦へと移り、ここでは狭い空間の中での素手による肉弾戦を展開。セガールのアクションの見せ場はこの潜水艦にあるのでファンは見逃さないように。そして、潜水艦での危機を脱して、ウルグアイへと戻ってからは狭い路上を縦横無尽に走り回るカーチェイが待っているのだ。それに加え、物語展開はサスペンスフルかつミステリアスな要素を持っている。実はセガールがこの作品への出演を決定したのは、脚本の持っていたこのサスペンスフルかつミステリアスな要素だったというが、その脚本にはアクション的な要素が少なかったため、大幅な改稿が行われ、キャラクターや舞台の追加などで厚みが加えられていったという。
監督は『ワックス・ワーク』、『ヘルレイザー3』などB級路線の作品を撮り続けるアンソニー・ヒコックス。出演はスティーヴン・セガールのほかに、『ソードフィッシュ』のヴィニー・ジョーンズ、『バッドマン・ビギンズ』のクリスティーン・アダムス、『トリプルX』のウィリアム・ホープ、『北斗の拳』のゲイリー・ダニエルズなど。
オープニング・テロップと共に流れるサブリミナル効果的な映像は良く出来ているのだが、その後の「ウルトラマン」の模型のような偵察機のシーン、テロ組織を壊滅する使命を帯びた小隊がヘリに乗り、敵陣へ向かう際の背景などの合成処理(CGか)は「この先、どうなってしまうんだろう」と思わせるほどの失笑ものなのだが、その後の展開は期待以上の出来となっている。アクションにプラスしてサスペンスフルかつミステリアスな要素を1時間半の中に詰め込んだ内容は正直、詰め込みすぎの感もあるのだが、ま、アクションを楽しむという点で考えればOKでしょう。大いなる期待は持たず(誰も持たないか)、劇場に脚を運べば、想像以上に楽しめるはずなので、ぜひ、劇場に脚を運んでください。 |