「赤ちゃんが実の父親に復讐!?奇想天外な発想で描かれる、父親なら親身に感じること間違いなしのフランスらしいコメディ作品」
フランス人といえば、個人主義者で皮肉屋というイメージがある。これは悪いイメージではなく、彼らのオシャレな部分などもこうした部分から来ているのは間違いないのだが、とにかく独善的なイメージがあるのだ。映画でその皮肉ぶり、独善ぶりが全開しているジャンルは間違いなくコメディである。今回紹介する作品はそんなフランス産のコメディ映画『赤ちゃんの逆襲』である。
恋愛ものだったり、アート系だったりというイメージが強いフランス映画だが、実は公開の主流となっているのはコメディ作品であるという。ハリウッド映画にしてもそうなのだが、コメディ映画はその国の状況や言葉、文化に負うことが多いため、国外で受けることが難しく、ヒットにも繋がり難い。こうしたことから、その国でヒットしていようが公開が見送られてしまう作品も数多い。でも、この手の作品には理屈抜きで面白いものがあるのも確かである。今回紹介する『赤ちゃんの逆襲』も基本となるテーストは皮肉、黒さに満ちたフランス産らしいコメディであるのだが、大人なら存分に楽しめる良質(?)な、特に子供を持つ親、中でも父親には骨身に沁みるようなものとなっている。
タイトルからも分かるように物語の主人公は赤ちゃん、そしてその父親である。実はこの父親、生まれたばかりの赤ちゃんに徹底的に嫌われ続けるのだ。その理由は彼の仕事にあった。彼はやり手の建築会社の社長。やっと念願の赤ちゃんを授かってウキウキ気分の時に、会社にやって来た若い男に自分の建築案を盗まれたと騒がれる。こんなことはよくある話と全く相手にせずに車で出掛けるのだが、道路に飛び出してきたその男を撥ね殺してしまう。そして死んでしまった男の魂はあろうことか、社長の待望の赤ちゃんへと乗り移ってしまうのだ。自分のアイデアを盗まれた上に殺されてしまった怨念から、赤ちゃんは父親に復讐を開始する。正に邦題通りの『赤ちゃんの復讐』である。
監督はこの作品が日本で初めての劇場監督公開作となるパトリック・アレサンドラン。作品について監督は「“赤ちゃんは常に無垢で優しい存在”という既成概念に挑んでみたいと思ったのです。生まれたばかりの赤ちゃんは、私たちが思っているよりひねくれています。」と語っている。生まれたばかりの赤ちゃんがひねくれているかは分からないが、多少なりとも子育てをしている経験のある側から語ると赤ちゃんはものすごく可愛い一方で、怪物のような存在でもある。相手は本能のままだから、泣くはわめくはこちらの思い通りにはならないのだ。相当にイライラもするけれども、それでも瞬間の可愛さゆえか、きちんと面倒をみる。これもきっと本能なのだろう。
建設会社の社長は徹底的に赤ちゃんに嫌われ続ける。ミルクを吐きかけるなど散々な行為を受けるのだが、何よりも身に堪えるのは彼に対してだけ笑顔を見せないのだ。これは相当なショックだ。育児をすることを放棄しても当然の行為だ。でも、この家庭では彼の若い妻は育児を放棄しているし、妻とそりが合わない祖母も同様である。彼だけが献身的に育児をし続けるのだ。それを逆手に取り、赤ちゃんは常識では考えられないとんでもない行動に出て行くのだが、この辺りは本編を観て、思う存分に楽しんで欲しい。物語はこの赤ちゃんと社長の関係以外にも、赤ちゃんに魂が移った男の元恋人と隠れてずっと関係を持っていた男、会社の右腕的な社員とその息子の関係などが絡みながら進んでいく。観ていて感じるのは、唯一真っ当なのは社長だけじゃないかということであって、だからこそ男親が観るとちょっと切ない気持ちに襲われてしまう。そんな経験はしなくとも社長にわが身を重ねてしまうのだ(これは母親も同様かも)。
ここに出てくる赤ちゃんの演技は特殊効果はもちろん、トレーニングによっても生み出されているものだという。もちろん、数人の赤ちゃんを使用しているというが、これは観てもらえば分かるだろうが、驚愕すべきものである。ちなみにフランスでは赤ちゃんを1日1時間以上働かせることは法律で禁じられているため、スペインで撮影されたという裏話もある(スペインは4時間まで可能なのだという)。
赤ちゃん好き、フランス映画き、ちょっと黒い笑い映画好きな人は存分に楽しめることは間違いないが、子育てをした経験のある人なら、楽しめると同時に最高に親身になれる作品だと思う。子育ての合間のデートにも最適ではないだろうか。ぜひ、劇場に脚を運んでください。 |