「地味だけど堅実な姉に、美しいのにその日暮らしの妹。喧嘩もするけど離れられないコインの裏表のような姉妹が探し出す自分にピッタリとフィットする人生。奮闘する全ての女性のための物語」
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(C)2005 TWENTIETH CENTURY FOX |
姉妹や兄弟という家族の中、家族の外で比べられる存在。両方がいい子というパターンもあるが、どちらかが出来がよければ、片方は事あるごとにそれを押し付けられるようにして育っていく。それが兄弟や姉妹の間の反発にも自然と繋がっていく。一般的には兄弟や姉妹の場合、「あの子はこうだから、この子はこんな風に」という育て方をすることも多いのだという。どっちかがヤンチャだったら、一方は割と物静かというどこかが対照的な兄弟や姉妹ができるというのも、そう考えると自然なのかもしれない。コインの裏表のように一方は社会的な成功を手にしており、一方は未だに根無し草のような生活をしているそんな兄弟や姉妹は当たり前のようにいるはずだ。一方はそのだらしなさが気に食わず、一方はその生真面目さに反吐が出る。でも、幼い頃から一緒だったから、血が繋がっているからだけでは測れない親密な愛情もそこには存在する。今回紹介する作品『イン・ハー・シューズ』が描くのはそんな姉妹の物語だ。
物語の主人公である姉妹の姉はフィラデルフィアの一流の法律事務所に勤める弁護士。最高のキャリアと収入を手にしているのだが、ちょっと太目の体とルックスにコンプレックスを持ち、恋に焦がれている。一方、妹は自分のルックスを武器に男にたかることで生き抜き、まともに働いたこともないという地に足の付かない生活を続けている。このままではいけないという気持ちはあるが、そこから抜け出すことが出来ない。この『イン・ハー・シューズ』は日本でも翻訳版が出版されているジェニファー・ウェイナーの第2作目に当たる同名小説を映画化したものだが、映画化に際して脚本を手掛けたスザンナ・グランド(『エリン・ブロコビッチ』)、監督のカーティス・ハンソン(『L.A.コンフィデンシャル』、『8Mile』)もこの姉妹の関係に魅了されたとしている。監督は「彼女たちは正反対に見えるが、実はコインの裏表のような存在だ。無意識に出る愛や癖を通じてつながっている。そんなふたりが仲違いをし、独り立ちしなければならなくなる。それによって彼女たちは解放され、それぞれの道を歩くことが可能になる。そしてある意味で本当に自分を発見するんだ。」とその魅力について端的に語っている。
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主人公の姉妹だけではなく、この作品には様々な傷を抱える人々が出てくる。その中でもキーとなるのが姉妹の中ではすでに亡くなっていたはずの祖母である。姉妹は幼い頃に実の母親を亡くし、継母との関係は決してうまく行っていなかった。亡くなっていたはずの祖母は姉妹にとっては母である自分の娘との関係にずっと重みを感じながら、生き続けていたのだった。
出演は姉妹の妹役にキャメロン・ディアス、姉役にこの役のために体重を大幅に増やしたトニ・コレット、そして祖母役に名優シャーリー・マクレーン。製作にはあのリドリー・スコットも名を連ねている。
残業続きの働きづめの毎日の中でやっとベッドを共にした男性、その証拠を残しておこうとデジカメで「パチリ!」とやった瞬間に鳴り出す電話。電話の向こう側は手に負えないほど酔っ払った妹。結局、実家からも追い出された妹を抱えながらやっと手にした男の眠る自分の住処へと戻ってくる姉、正反対のふたりの関係を物語るこのオープニングのシーンがいい。この寝た男のことを友人に自慢しようとするが、写真はまともに写っていない、そのクスっとくるおかしさ。作品全体にはドタバタとしたものではなく、こうしたおかしさが満ちている。感動作かもしれないが、その感動も大げさではない。この作品の魅力はそうしたいい意味での“普通”さにあると思う。だからこそ、女性は登場人物に自分の気持ちが重なってくるし、だからこそ、その場だけでは終わらない心地よい後味が残るのだ。これも今までとは違う役に挑戦したキャメロン・ディアスやトニ・コレット、シャーリー・マクレーンなど出演している役者の素晴らしさや、過剰でない演出を心がけたであろうカーティス・ハンソン監督らの手腕があったからこそ生まれたのだ。
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キャメロン・ディアス演じる妹は何とか生きていく道を探そうと奮闘するがそれを阻むのが「難読症」という症状である。「難読症」とは読書をしたり、文字を綴ったりする時に特定の文字が理解できないという欧米では非常に多い症例だという。妹はあるきっかけからこの症状を克服し、新たな生きる道を発見していく。一方の姉は法律事務所をやめることで「仕事が好きだったのではなく、仕事をやめることで人生の支えがなくなるのが怖かったのだ」ということに気付き、そこから解放された新たな自分を発見していく。嫌悪感から離れていたのに姉妹の関係はどこかで立場を少し変えながらも交わっていく。そして祖母も交えた形での最後の新たに引かれたスタート・ラインへと戻っていく。
タイトルの『イン・ハー・シューズ』は自分たちにフィットする人生の象徴としての意味合いでの靴。作品の中でも様々な靴がその場の意味合いを込めて登場する(姉は靴フェチだ)。そんな靴はもちろん、ファッションや食べ物(ジャマイカン・フードがおいしそう)、文学も楽しめる作品となっている。間違いなく、奮闘し続ける全ての女性たちに捧げられた、どこか懐かしさもある心地よさに満ちた作品です。ぜひ、劇場に脚を運んでください。 |