「ジャッキー・チェンのひとり息子
ジェイシー・チェン、満を持しての映画デビュー作が公開」
人に教えてもらったのか、何かで読んだのかは忘れてしまったが、地方自治体などの議員まで含めれば、俗に“世襲議員”と呼ばれる方々は70%近くになるのだという。見渡してみれば、TOPやその周辺からしてそうなっている。この“世襲議員”を何とかしようという運動もあるのだけれども、この“世襲”に拍車がかかっているのも事実らしい。“世襲”ではないが、ミュージシャンや俳優の世界も2世などのタレントが花盛りである。これは幼い頃からそうした現場に接し続けていたという部分も大きいのだろう。今回紹介する作品『花都大戦:ツインズ・エフェクトU』もそうした2世俳優のデビューとして記憶される話題作である。
この作品でデビューした2世俳優とはジェイシー・チェン。なんと、アジアのみならず、ハリウッドでも大活躍するジャッキー・チェンのひとり息子である。個人的には「ジャッキー・チェンは結婚していたのか(日本の元アイドルとの噂も会ったな)。」という驚きが先にあったのだが、子供がいたということも一般的には知られておらず、この作品に先立つ形となった2004年の歌手デビューによって、その存在が大きく知られるところとなったようだ(『失われた龍の系譜/トレース・オブ・ア・ドラゴン』というジャッキー・チェンの両親が自分たちの過去を語ったドキュメンタリー映画の中では多少触れられている)。ジャッキー・チェンの大切なひとり息子であるジェイシー・チェンは1982年にロサンゼルスで生まれている。母親は台湾の大女優リン・フォンチャオ。大スターとの間に生まれたサラブレッドがジェイシーなのである。その存在を公にしなかったジャッキーの気持ちもよく分かるが、やはり俳優の血を受け継いでいるのだろう。ジェイシーはこの作品で瑞々しい演技と表情を見せてくれている。
作品はサブタイトルに『ツインズ・エフェクトU』とあるように香港で爆発的なヒットを記録した作品『ツインズ・エフェクト』の第2弾である。主演はもちろん、香港で絶大な人気を誇るアイドルユニット“ツインズ”のシャリー・チョイとジリアン・チョン。『ツインズ・エフェクト』はアクションてんこ盛りのハチャメチャなコミック的展開が楽しい香港映画らしい作品だったが、この作品『花都大戦:ツインズ・エフェクトU』もばっちりとそういった部分を受け継いでいる。
舞台となるのは古代の女帝により統治された国。ここでは男たちは奴隷としての扱いを受け、苦しみ続けていた。そんな中、女帝は前王朝の末裔である皇帝星が出現し、男女平等の世の中が来ることを予言で知る。同じ頃、前王朝復活の鍵が隠されている石版が何者かによって盗まれてしまう。この石版を偶然にも手に入れたのが、旅芸人の一座の青年たち。その青年たちには一攫千金を狙う奴隷商人の女性と身分を偽った皇帝の密使がそれぞれの思惑を抱え、同行していくのだが、というのがこの作品の物語。ジェイシーが演じるのはこの旅芸人の青年である。
作品には派手なワイヤー・アクションなどのアクション・シーン、男と女の逆転した関係や石版の謎がパズルのようにいとも簡単に解けてしまうお気軽さ、笑いなどB級香港映画の魅力、エンタティンメント性が満載なのだが、最大の見所は息子の銀幕デビューを祝福する父親ジャッキー・チェンと『HERO』、『ブレイド2』のドニー・イェンとのカンフー・アクション・シーンではないだろうか。ここだけがちょっと格が違います。その他の出演者もチェン・ボーリン、エディソン・チャン、レオン・カーファイ、ダニエル・ウーといった新旧のスターたちが集結している。監督は『トランスポーター』のコーリー・ユンとジョン・ウー監督の作品にアシスタント・ディレクターなどとして係わってきたパトリック・レオンが務めている。
やはり、どうしても目に付くのはジェイシー・チェンになってしまう。映画の前に眺めたプレス用のパンフレットではなんとなく面影があるのかな程度だったのだが、映画を観ると「あのでかい鼻が、優しい眼が!」と父親似をはっきりと確認。演技自体は派手さではなく、おっとりさ(これは育ちの良さかな)が目立つのだが、最後の山場であるアクション・シーンも吹き替えなしでこなしたというから、なかなかのもの。逆に後半に登場し、ドニー・イェンとの見せ場を作る父親は、息子を観てしまったから、今まではなかった年齢を感じてしまう一面もある(でも、アクションは息子も敵わない1級品だ)。ジェイシー・チェンが今後、どのような俳優になっていくかは未知数だが、あの父親譲りの人懐っこい笑顔は相当に印象深い。これに経験が付いてくれば、より大きな活躍が期待できるのではないだろうか。
作品のテーストは香港映画らしいアクションと笑いが満載のお気楽なエンタティンメントである。韓国映画の隆盛の中で、こういった類の香港映画が劇場公開される機会が減っているだけに、香港映画好き、アジア映画好きにとっては嬉しい限りではないだろうか。お気楽に、ぜひ、劇場に足を運んでください。
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