「伝説のストリッパー
ジプシーローズに娘がいたら・・・・という発想から始まった、歌によって生き、成長するストリッパーの母を持少女の物語」
日本映画(邦画)の興行成績が好調だといわれている。確かに、この夏の興行成績を見ても毎年夏の恒例である『劇場版
ポケットモンスター』などのアニメーション、『亡国のイージス』、『星になった少年』、『妖怪大戦争』などといった大作がヒット・チャートをにぎわしているし、『電車男』、『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ作品である『交渉人 真下正義』(もうひとつのスピンオフ作品『容疑者 室井慎次』の大ヒットも確実だろう)、『フライ,ダディ,フライ』などのヒットも記憶に新しい。要するにこれが「邦画が元気である」ということに繋がっているのだが、一般的にこうした大作以外の邦画に目が向けられているのかということに関してはちょっと疑問だ。このサイトでは割とそういった作品も扱ってきた。今回紹介する『ジーナ・K』も正にそうしたタイプの作品だ。
伝説のカリスマ的シンガー ジーナ・K。彼女が死んでいたというニュースを耳にしたドキュメンタリー作家は今まで自分が捉えてきたジーナ・Kの姿をもとに彼女の足跡を追い続ける。そこに見えてきたのは伝説的なストリッパーである母親との葛藤、ある男性に抱いていた叶わなかった愛という中でも生き続ける彼女の姿だった、というのがこの作品のストーリーだ。
監督は藤江儀全。石井聰亙監督の作品を中心に、フリーランスの助監督として長い間活躍してきた藤江監督は念願の長編デビューとなるこの作品のきっかけについて「戦後の過渡期を身を削りながら爆走し、34歳でこの世を去った伝説のストリッパー、ジプシーローズ。彼女がもし今という時代に生きていて、娘がいたとしたら・・・・。」ということを思い浮かべ、その娘を主人公とした物語を創ってみようと考えたという。
藤江監督自身が伝説のストリッパーと語るジプシーローズは日本のマリリン・モンローとも称された踊り子。昭和10年に福岡県久留米に生まれた彼女は14歳で浅草の舞台に出演、その後、恋人で演出家的な存在の男と出会い、踊り子へと転進。独自の腰のグラインドで世の男たちを虜にしていく。性格もわが道を行くという勝気なもので、数々の伝説も残している。その後、とある不運な事件をきっかけに彼女の人気は凋落。どさまわりの日々を過ごし、最後はバーのマスターとなっていた。例えば、不運としか言いようのない事件がなかったら、その後の彼女はどうなっていたのだろうかと考えるのも興味深いが、戦後という時代の影の顔の代表ともいうべき、自分の身ひとつで情熱的な生き方をしてきたジプシー・ローズに娘が、しかも現代にいたらという発想も確かに面白い。
作品の中でこのジプシー・ローズをモデルにした伝説のストリッパーを演じるのは石田えり。その娘を演じるのはミュージシャンのSHUUBI(しゅうび)。その他の出演者は、『青い車』のARATA、『ハッシュ!』など数々の作品に出演する光石研、自主映画を中心に活躍してきた新人の吉居亜希子、『ハッシュ!』、『帰郷』の片岡礼子、『ラブドガン』など日本映画界を代表する俳優である永瀬正敏、そして石井聰亙など。
伝説のストリッパーである母親、母親を超えようと歌という舞台で伝説的な存在になっていく娘
ジーナ・K。そのふたりを育て上げるマネージャー的な存在の男。ここに恋や友情など様々な要素が絡み、物語は展開していく。作品に満ちているのは自分をさらして生きていくことの困難さと力強さ、そしてどんな状況だろうが生き抜いていく女性たちへの賛歌である。
そうした部分と共に、この作品には監督自身の故郷である九州の福岡、そして同郷の師匠でもある石井聰亙監督への想いに溢れているように感じられる。それは作品の舞台、音楽への愛着、石井監督の起用方法に如実に現れている。
藤江監督は「心の楽園を追い求めて生きること。そこでなりたい自分を見つけること。自分なりの絶対をつかみとること。今の自分の野望でもあります。」とこの作品への思いについて語っている。様々な、自分なりの気持ちが入り込んだこの作品もだが、長い時間をかけて見つけていくであろう“自分なりの絶対”という部分から発せられていく今後の作品も本当に楽しみだ。若手監督が持て囃される中では遅すぎたデビューかもしれないが、それを補う想いが作品には満ちている。ぜひ、劇場に足を運んでください。
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