「三池崇史、パク・チャヌク、フルーツ・チャンという優れた監督を集め、アジアン・ホラー・オムニバスの秀作『THREE/臨死』の第二弾が公開」
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(c) 2004 APPLAUSE PICTURES LIMITED,
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ハリウッドのリメイク権の獲得などで大きな注目を集めた“アジアン・ホラー”の世界。ハリウッド版のリメイク作が公開され始めている現在もその勢いに衰えはみられないようだ。多くの作品が公開されていく“アジアン・ホラー”中で個人的に印象に残っているのが、2003年に劇場公開された『THREE/臨死』というオムニバス・ホラーであった(DVD化の際に『THREE
死への扉』とタイトルが変更になっている)。オムニバス・ホラーで思い出す作品というとフェリーニ、トリュフォー、ロジェ・ヴァディムという監督による『世にも怪奇な物語』、スピルバーグ、ジョン・ランディスらによる映画版の『トワイライトゾーン/超次元の体験』、ロメロの『クリープショー』やロージャー・コーマンが監督したエドガー・アラン・ポーの作品なんてところなのだが、この『THREE/臨死』はそういった作品と並び、印象に残る作品となっている。今回、紹介する作品はこの『THREE/臨死』の第二弾である『美しい夜、残酷な朝』である。
今をときめく韓流スターのイ・ビョンホン、モデルのみならず、女優としても活躍する長谷川京子の名前が並ぶチラシやポスター。「え、このふたりが共演しているのか」と思った向きもあるだろうが(実際に私自身も一瞬そう思ったのだ)、先にも書いたように、この作品は3篇のホラーで彩られた『THREE/臨死』の第二弾なのである。これは宣伝のうまさなんだろうが、気づいていない人もいるんじゃないかな。
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『THREE/臨死』と同様に、この作品でもプロジェクト・リーダーを務めたのは『ラブソング』、『君さえいれば/金枝玉葉』のピーター・チャン。小林正樹監督による作品『怪談』(1965)から着想を得たというピーター・チャンは第一弾にあたる『THREE/臨死』は「アジアで才能のある監督で1本の作品を」というコンセプトのもとに、韓国のキム・ジウン(『箪笥<たんす>』)、タイのノンスィー・ニミプット(『ナンナーク』)、そしてピーター・チャン自身という3つの才能を集め、作品を完成させている。そして、この第二弾にあたる作品にピーター・チャンが掲げたコンセプト「各国で最も動員力を誇る監督」のもとに集められた監督は、日本の三池崇史(『殺し屋1』)、韓国のパク・チャヌク(『復讐者に憐れみを』)、香港のフルーツ・チャン(『ハリウッド☆ホンコン』)だった。コンセプトにピッタリとはまるのかは疑問の部分も多少あるが、各国で最も才能もあり、集客力もある監督を集めたと考えれば、全く異論はないだろう。
オムニバス作品の面白みはやはり、同じテーマに対するそれぞれの監督のアプローチの差である。このシリーズ作にはホラーであること以外は特に大きな共通のテーマはなく、監督の自由に任せているように感じられるが、それだからこそ現れるそれぞれの監督の色合い、アプローチの違いが面白い。韓国のパク・チャヌク監督による『cut』はユーモア感覚と相変わらずの流血で独自の世界、日本の三池崇史監督による『box』は静寂さの中に浮かび上がってくる日本的な美しさすら感じる恐怖、香港のフルーツ・チャン監督の『dumplings』は人間の飽くなき欲望が生み出す恐怖を描いている。どの作品も全くタイプの違う作品だが、本当に甲乙つけがたい素晴らしい内容となっている。
出演は韓国編の『cut』がイ・ビョンホン、カン・ヘジョン、日本編の『box』が長谷川京子、渡部篤郎、香港編の『dumplings』がミリアム・ヨン、バイ・リン、レオン・カーファイ。今までにない役柄を演じるイ・ビョンホン、この作品が映画初主演作となる長谷川京子の静謐さなど役者陣の演技も甲乙がつけられない作品の素晴らしさを生み出している大きな要因だ。
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どの作品も甲乙つけがたい素晴らしい内容だが、やはり好みというものはある。そんな好みで個人的にひとつを選ぶとしたら、香港のフルーツ・チャン監督による『dumplings』になるだろう。美貌に若さを取り戻すという餃子を食し続ける婦人とその不思議な餃子をアパートの一室で作り続ける女性を中心に綴られるこの物語はクリストファー・ドイルによる美しい映像と現実にありえるんじゃないかという物語が人間の欲望の恐怖と切なさを誘ってくる。この作品は香港では全くエピソードの違うロング・バージョンとして単体で公開されているらしいのだが、そちらも何とかして観てみたいのだが(ぜひ、公開してください)。でも、静謐な雪世界の中の見世物小屋という寺山を思い出させるような三池崇史監督が生み出した日本的な世界も、突きつけられる恐怖の中に笑いを取り込んだパク・チャヌク監督の作品も捨てがたいのだ。総合的な出来では第一弾の『THREE/臨死』を上回っていることは確かなこのオムニバス・ホラー作品『美しい夜、残酷な朝』。ホラーが好きなら、監督に興味があるなら、ぜひ、劇場に足を運んでください。
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