「名匠
市川崑監督による世界の人気者トッポ・ジージョを主役とした幻のパペット作品」
これまでの映画のデータベースが載っている本をパラパラとめくっていたりすると、この監督がこんな作品を撮っていたなんてとびっくりする時がある。そこには監督以上に製作会社の意向が働いたりすることもあるのだろうが、やはり、監督自身が好きだから撮ったという部分も大きいはずだ(でも、回顧録なんか読んだりするとその辺を否定してしまう監督も多いんだけどね)。今回紹介する作品『トッポ・ジージョのボタン戦争』もその監督名に僕自身はびっくりしてしまった作品だ。
この作品『トッポ・ジージョのボタン戦争』はタイトルからも分かるように、トッポ・ジージョというキャラクターが主役の作品である。トッポ・ジージョのことはある程度の年齢を重ねた方なら、TV番組やCMで観たことを覚えているのではないかと思う。きっと、大好きだったという方もいるはずだ。大きな耳にとぼけた顔、ボーダーのシャツを着た姿が印象的なネズミのキャラクターであるトッポ・ジージョが生まれたのはイタリア。生みの親はマリア・ペレゴという子供たちのための人形劇団を作った人形芸術師である。数多くのキャラクターを生み出してきたマリア・ペレゴの最高傑作が、このトッポ・ジージョなのである。生まれてから、50年以上が経つトッポ・ジージョは、ヨーロッパはもちろん、アメリカではあの「エド・サリバン・ショー」に何度も出演し、世界的な人気キャラクターとなっている。もちろん、それは日本でも例外ではなく、初来日し、自分の番組を持ち人気に火のついた1960年代、CMなどの出演で人気となった1970年代、アニメ番組が放映された1980年代、そして衛星放送で新たな番組がシリーズ放送された現在と多くの世代に愛され続けている。そういった中で最も人気があったのが1960年代であり、この作品もそういった余波を受けて作られた作品ともいえるだろう。
そして僕がびっくりしたというこの作品の監督は名匠 市川崑 監督である。監督のイメージからして「えー!」という感じだったのだが、プログラム・ピクチャーがきちんと機能していた時代の作品(1967年製作)であったこと、監督がアニメーター出身であること(後に実写とアニメを融合させた『火の鳥』なども監督している)、様々なジャンルに挑む監督であることなどを考えるとそれ程、驚くことでもないのかなと今では思っている。
自身もトッポ・ジージョのファンであったという市川監督はこの作品について「トッポ・ジージョの映画を製作することになったとき、私は私なりに子供のための映画をつくってみようと思いついた。子供のための単なる説法やお伽噺をつくろうというのではない。あくまで現在の物語を《こころ》というものを主題にして、子供だけでなく、大人にも、世界中の人にも楽しく鑑賞してもらえるフィルム・・・・豊かな夢と勇気を・・・・そして新鮮な映画独自の面白さに満ちたフィルムを、という欲深いものである。それにはジージョは格好の主人公である。」と語っている。作品は当時のトッポ・ジージョの人気を背景に、子供たちを中心に大ヒットを記録している。
実写とパペットを融合させたこの作品の魅力はたくさんあるが、その中でも最大のものは創作者であるマリア・ペレゴの豊かな指先から生み出されるトッポ・ジージョの動きである。パペットとは思えないこの動きの優雅さはとにかく必見。顔は出さずにシルエットのみ、靴下の色で色分けされたギャングたち、映像を盛り上げる中村八大によるビッグ・バンド・ジャズ、効果的な音響など、この時代の市川監督らしいスタイリッシュで遊び心に満ちた映像表現ももちろん大きな見所だ。このイタリアと日本の才能の融合が作品に今でも色あせない魅力を生み出している。タイトルに“ボタン戦争”とあるが、このボタンは核のボタンのこと。そういった部分でストーリーには時代背景というものが大きく圧し掛かっているのだが、こういう話をジージョというだけで、子供が大喜びして観たというのも信じられない気もする(それだけ核のボタンが一般的だったのか)。もちろん、今観ても子供から大人までが十二分に楽しめる作品です。トッポ・ジージョのファンはもちろん、あの時代を感じたい人やパペット・ファンの方など、ぜひ、劇場に足を運んでください。 |