「若者を中心に圧倒的な支持を受ける漫画家
井上三太の作品がついに待望の初映画化!」
「TOKYO TRIBE」、「TOKYO TRIBE2」、「Tokyo
Graffiti」などの作品で若者を中心に圧倒的な支持を受ける漫画家 井上三太。彼の作品が若者から大きな支持を受ける理由のひとつは“TOKYOのストリート・カルチャー”と同居し続けているからだ。そんな彼の活動はもちろん漫画の世界だけに留まらず、“SANTASTIC!”という自らのファッション・ブランド(SARU
というロゴのやつです)、自らが主催してのクラブイベント、DJ活動、CDプロデュース、フィギュア製作など非常に幅広いものとなっている。漫画だけでなく、そこから広がる部分も含めて、井上三太という世界を作ってきたともいえるだろう。そういった世界を形作ってきた井上三太がなかなか首を縦に振らなかったもののひとつが作品の映画化だった。しかし、ついにその作品の映画化に許可が出た。それが今回紹介する作品『隣人13号』である。
今回、映画されることになった井上三太の作品『隣人13号』は「コミック・スコラ」という雑誌で1993年から連載が開始されたが、雑誌の休刊に伴い、その後はインターネットで完結まで発表されたという彼の代表作である。物語は、小学生の頃にあまりにもひどいイジメにあっていた十三が10年後、その復讐のために田舎に戻ってくることから始まる。十三は復讐相手の勤め先に入社するが、その相手は十三の記憶すらなく、また十三をイジメ始める。しかし、10年間の復讐に燃えた歳月の中で十三の中にはもうひとつの人格が育っていたというもの。井上三太によるこのコミックは暴力描写が生々しく、実際に映画化されると聞いた時は「すごい!でも、あの暴力描写をどうするのか」と僕自身は思っていた。
この強烈なコミックの映画化を手掛けることになった監督は、これが初めての映画作品となる井上靖雄。当然なじみのある名前ではないだろうが、ミュージック・ビデオ、CMの世界ではその名を知らぬものがいないディレクターである。井上三太は「彼のビデオをみて、僕の好きな絵づくりだと感じたんです」と映画化を許諾した大きな理由を語っている。一方、初めての映画制作となる井上監督は「原作の素晴らしくイカれた世界をそのまま映像化することを心掛けました」と語っている。また、映画で“表の人格の十三”と“裏の人格の十三”で役者を使い分けていることについては「映像として二つに分けたことで、人格が異なるという明確な記号を提示したかったんです。(そうすることによって)矛盾も生まれなかったし、むしろ利点がたくさんあって自然な仕上がりになっていると思います」と語っている。
主演は“表の人格の十三”役に『あずみ』、『イズ・エー』の小栗旬、“裏の人格の十三”役に歌舞伎役者であり、『アイデン&ティティ』など映画、テレビでも活躍し、熱狂的な支持を受ける中村獅童。その他の出演者は『青い春』、『ラブドガン』の新井浩文、アメリカでも人気沸騰中のデュオPUFFYの吉村由美、TVドラマ『ウォーターボーイズ』でデビューした石井智也、『あずみ』の松本実など。友情出演として三池崇史も顔を出している(どうしようもない役なんだ)。また、エンディング・テーマは人気兄弟ギターデュオ
平川地一丁目が原作コミックと脚本を読み、受けたイメージから書き下ろした曲を提供している。
ミュージック・ビデオ出身らしいなと感じさせるオープニングなど印象に残る映像、シーンもあるが、この作品を推し進めるのはなんといったって物語とそこに漂う空気だろう。イジメる側とイジメられる側、誰しもがどちらの側にもついたことがあると思う。そして、イジメというものは結果的には負の空気を生み出していく。この作品には徹底的に負の空気が蔓延している。小学生時代のイジメを引きずる十三、職場でも子供じみたイジメを繰り返す赤井、赤井にイジメられ、胸のうちに鬱積したものをためる同僚。その負のエネルギーに観ている方も気分が圧迫されてくる。唯一、負の空気がちょっと抜けるのが子供、妻といる赤井だろう。そこには家族を愛し、後輩に説教をしたりと社会性を説く赤井が存在する。でも、会社では赤井はイジメを続けているのだ。負の空気が回り続ける中でやってくるクライマックスのシーン、その負の空気はあることにより破られる。それだけが救いだったのかもしれないし、それだけを望んでいたのかもしれない。それはたわいもないことなんだけど、そのたわいもないことが出来ないし、分からないのかもしれない。十三を二人の役者で使い分けたことも効果的だし、小栗旬、中村獅童、新井浩文、吉村由美も好演、その結果、井上監督が語る“イカれた世界をそのまま映像化すること”はうまくいっていると思う。ただ、このイカれた世界は現実の世界に完全にはまり込んでいる。先日、大阪で起こった事件も同じようなことが原因だった。イジメる側は忘れるが、イジメられる側はその記憶を深く刻んでいく。そこの部分が印象的な映像、音響と共に徹底的に描きこまれている作品だと思う。最後のシーンも僕には希望のように見えて、悲しさを感じさせるシーンだった。いい監督デビュー作です。相当にヘビーな作品ですが、ぜひ、劇場に足を運んでください。
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